◇
────4月29日。
今日は不思議とアラームより早く目が覚めた。
記憶を取り戻した身体には、染み込んでいるのかもしれない。
理人に対する防衛本能が。
支度と朝食を早めに済ませると、ふいにスマホが着信音を響かせる。
どくん、と心臓が跳ねた。理人だ。
『おはよう、今日は起きてる?』
「あ、い、いま起きた!」
どう答えるか悩んで、慌ててそう言った。
理人には記憶のことを悟られないようにしなきゃいけない。
くす、と電話口の向こうで彼が笑った。
『分かった。いつもの時間に迎えにいくからね』
「う、うん。ありがとう」
通話を切る。
ほんの短いやり取りなのに、ひどく緊張した。
跳ねる心臓をおさえるように深く息をつくと、再びスマホが鳴った。
今度はメッセージの通知音だ。
【大丈夫そうか?】
向坂くんからだった。
今度は別の意味で鼓動が速くなる。
【おはよう。大丈夫、いまのところは特に何もないよ】
ただメッセージでやり取りをしているだけなのに、不思議と笑みがこぼれる。
向坂くんと話していると、深刻に思い詰めなくていいから、気持ちが軽くなるような気がした。
【そっか、でも気つけろよ】
────頬を緩ませながら画面を眺めているうちに、いつの間にか時間が過ぎていたようだ。
「菜乃、理人くん来てくれてるわよ」
階下からお母さんに呼ばれ、はっと我に返る。
急いで階段を駆け下りると「行ってきます!」と玄関を飛び出した。
門の向こう側にいる理人は、ふわりとわたしに笑いかけてくれる。
「そんなに慌てなくていいよ?」
「ううん、ごめん。待たせちゃって」
前髪を整えつつ、隣に並ぶ。
「さては二度寝したんでしょ」
「……えへへ、ばれた?」
なんて苦く笑ったけれど、内心ほっとしていた。
結果的にそう思わせて、いつものだめなわたしを演出できたのはラッキーだった。
いまのところ、理人にはきっと疑われていない。
彼の信じている“わたしに記憶がない”という前提が、懐疑の目を逸らしてくれている。
(でも……)
わたし、どうすればいいんだろう。
────4月29日。
今日は不思議とアラームより早く目が覚めた。
記憶を取り戻した身体には、染み込んでいるのかもしれない。
理人に対する防衛本能が。
支度と朝食を早めに済ませると、ふいにスマホが着信音を響かせる。
どくん、と心臓が跳ねた。理人だ。
『おはよう、今日は起きてる?』
「あ、い、いま起きた!」
どう答えるか悩んで、慌ててそう言った。
理人には記憶のことを悟られないようにしなきゃいけない。
くす、と電話口の向こうで彼が笑った。
『分かった。いつもの時間に迎えにいくからね』
「う、うん。ありがとう」
通話を切る。
ほんの短いやり取りなのに、ひどく緊張した。
跳ねる心臓をおさえるように深く息をつくと、再びスマホが鳴った。
今度はメッセージの通知音だ。
【大丈夫そうか?】
向坂くんからだった。
今度は別の意味で鼓動が速くなる。
【おはよう。大丈夫、いまのところは特に何もないよ】
ただメッセージでやり取りをしているだけなのに、不思議と笑みがこぼれる。
向坂くんと話していると、深刻に思い詰めなくていいから、気持ちが軽くなるような気がした。
【そっか、でも気つけろよ】
────頬を緩ませながら画面を眺めているうちに、いつの間にか時間が過ぎていたようだ。
「菜乃、理人くん来てくれてるわよ」
階下からお母さんに呼ばれ、はっと我に返る。
急いで階段を駆け下りると「行ってきます!」と玄関を飛び出した。
門の向こう側にいる理人は、ふわりとわたしに笑いかけてくれる。
「そんなに慌てなくていいよ?」
「ううん、ごめん。待たせちゃって」
前髪を整えつつ、隣に並ぶ。
「さては二度寝したんでしょ」
「……えへへ、ばれた?」
なんて苦く笑ったけれど、内心ほっとしていた。
結果的にそう思わせて、いつものだめなわたしを演出できたのはラッキーだった。
いまのところ、理人にはきっと疑われていない。
彼の信じている“わたしに記憶がない”という前提が、懐疑の目を逸らしてくれている。
(でも……)
わたし、どうすればいいんだろう。



