狂愛メランコリー


 どう解釈してもそう受け取れる。
 その事実が嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。

「……なに笑ってんだよ。結局殺されたのに」

「うん、でも嬉しくて。向坂くんがいてくれてよかった」

 包み隠さず本音をこぼすと、彼は呆れたような表情を浮かべる。

「だからさ、そういうこと恥ずかしげもなくよく言えるよな」

 言ってから、違和感を覚えたように首を傾げた。

「ん? 俺、前にも同じようなこと言ったっけ」

「……どうだろう?」

 わたしも首を傾げながら、向坂くんから借りた腕時計を見つめる。

「とりあえず、だめもとでも腕時計持っといてよかった。まさか、それでおまえの記憶まで取り戻せるとは思わなかったけど」

「わたしも知らなかった……。でも、どうして“前回”のことだけ思い出せたんだろう?」

 “前回”のわたしは、それ以前のことも覚えていたみたいだけれど。

「……あ」

 口にしてみるとふいにひらめきが降ってきた。

「ん?」

 わたしは腕時計を掲げて見せる。

「これだと思う。たぶん、これを持ってた向坂くんが覚えてるのと、同じ範囲の記憶を取り戻せたんだ」

 向坂くんは“前回”分の記憶を保持している。

 その彼が持っていた腕時計に触れたから、わたしも同じ分だけ記憶を取り戻すことができた。

 記憶の内容は共有されなくて、あくまで範囲だけ適用されるんだ。

「なるほどな。じゃ、三澄の持ってる腕時計に触ったら、ぜんぶ思い出せるのか?」

「たぶん、それはできないと思う。理人は腕時計がなくてもぜんぶ覚えてるみたいだし……」

 記憶の法則を知らなかった時点から、彼が記憶を失うことはなかったのだから。

(……あれ?)

 そもそも、どうしてこうなったんだっけ……?

 理人の殺しの動機が歪んだ純愛だとして、最初のときは、どうして殺されたんだろう。