びっくりした。
口から勝手に言葉がこぼれた。
「おまえ、覚えて……?」
「え、えっと……」
わたし以上に彼も驚いている様子だ。
知らないはずの彼の名前を、どうして口にできたのだろう。
「ちょっと来い」
中庭まで来ると、彼はようやく足を止める。
「なあ、俺のこと覚えてんのか?」
「えっ、と……分かんない。わたし、あなたと知り合い……だっけ?」
「じゃあ何で俺の名前知ってたんだよ」
「それはわたしにも分からないの。何でなんだろう? 知らないはずなのに、気になってた……ような」
曖昧なわたしの答えを聞き、彼は眉を寄せる。
「腕時計は奪われたみてぇだけど、覚えてることもあんだな。何でだ? ループを繰り返しすぎたのか?」
ひとりごとかとも思ったけれど、その意味不明な内容を無視することはできなかった。
「ループって……?」
そう尋ねると、顔を上げた向坂くんは真剣な表情でわたしを見据えた。
「信じらんねぇと思うけど、いまから言うことはマジな話だ。よく聞け」
ただならぬ気配に圧倒され、つい緊張して身構えてしまう。
「おまえは三澄に殺される」
「え……?」
「実際もう何度も殺されてんだよ。そのたび今日に巻き戻って、死ぬまでの3日間を繰り返してる」
わけが分からなかった。
わたしが理人に殺される……?
そんな突飛な話、信じられるはずがない。
「うそ……」
「嘘じゃねぇ。おまえが忘れてるだけだ」
「じゃあどうして向坂くんは覚えてるの? そのこと知ってるの……!?」
そう尋ねると、おもむろに彼はポケットに手を入れた。
取り出した何かをわたしに差し出す。
恐る恐るてのひらを向けると、わずかに重みのある何かが載せられた。
「腕時計……?」
淡い紫色のベルトが特徴的で、華奢なデザインから女性用だと分かる。
おおよそ向坂くんには似つかわしくないような────。
そんなことを思った瞬間、ふいに頭の奥が疼いた。
「……っ!」



