長い長い、悪夢を見ていたような気がする。

 不意に、けたたましい音が聞こえた。

「ん……」

 夢から(うつつ)へ、意識が明瞭化していくと、それはアラームの音だと気が付いた。

 何だか頭が痛い。

 鳴り響くアラームがそれを助長させる。

 画面をタップして停止させると、ロック画面を見た。
 4月28日。午前7時半。

 ごろんと寝返りをうつ。

(もう少し……)

 再びうつらうつらとしたとき、今度は着信音が鳴った。

 もぞ、と布団から手を伸ばし、応答する。

『菜乃、おはよう。起きてる?』

「理人……。起きてるよ」

『どうせまだベッドにいるんでしょ』

 からかうように笑う理人。

 なぜ分かったのだろう。

 ふあ、とあくびをする。

「理人が来るまで寝てる」

『だーめ。遅刻するよ? 僕もう家出たから、そろそろ準備して』

「はーい……」

 気のない返事を返しつつ通話を終えると、重たい身体を起こした。

 寝ぼけ眼で支度を整えていく。

 寝起きだからだと思っていた頭痛は、朝食を終えた頃にもおさまらなかった。

(何だろう? 風邪ひいたかな?)

 でも、熱はないし何だかそういう感じじゃない。

 頭の芯の方から響くような────それでいて、空洞を吹き抜ける風みたいな虚しさを感じる。

 何だろう?

 大切な何かを失ってしまったかのような、この喪失感は……。

 どことなくもやもやしながら玄関のドアを開ける。

 門の向こうに理人を見つけ、慌てて駆け寄った。

「あ、待たせちゃってごめん! おはよう、理人」

「全然大丈夫だよ。……お陰で確信出来た(、、、、、)し」

「え?」

「ううん、何でもない。行こうか」

 何だかいつもより、理人は嬉しそうに見えた。

 いいことでもあったのかな。



「…………」

 他愛もない会話を交わす傍ら、心の中のもやもやと頭の中の空洞が膨張していく。

 理人の顔を見ていると、余計に頭が痛くなった。

 それと同時に、今朝見た夢のことを思い出す。

 はっきりとは覚えていないけれど、誰かに殺される悪夢だった。

 痛くて、苦しくて、あまりに生々しかったから忘れられない。

「どうかした?」

「あ、ううん。大丈夫」

 咄嗟に首を横に振り、そんな自分の行動に困惑した。

 いつもだったら絶対、理人に話すだろうに、思い留まってしまった。

 なぜか、夢のことを彼に話す気にはなれない。

(理人じゃなくて、────くんに話して……)

 そこまで考え、はっとした。

 ぴた、と足が止まる。

(誰……?)