放課後まではあっという間だった。

 4月30日────つい、今日の日付を何度もロック画面で確かめてしまう。

 今のところはそれくらいに平穏だった。

 昇降口で靴を履き替えていると、向坂くんが柱の影に立っているのに気が付いた。

「…………」

 思わず見つめてしまう。

 彼の双眸も私を捉えていた。

「行こうか、菜乃」

「あ……うん」

 理人に声をかけられて頷く。

 何か言いたげだった向坂くんを再び見やったが、既にそこには誰もいなかった。

 気にかかったけれど、どうしようもない。

 私は理人とともに帰路についた。



 いつもと違う道を歩く。理人の家に近づいていく。

「誘っておいて何だけど、別に何もないからね?」

 少しだけ照れくさそうな理人に、小さく笑ってしまう。

「あるよ、理人の家には色んな思い出が。この道だって、既に懐かしいよ」

「それは確かにそうだよね。菜乃と二人で歩くのは久しぶりだな」

 そのうち、白いレンガ造りの小さな一軒家が見えてくる。

 洋風の造りと手入れの行き届いた庭が可愛らしくて、昔は“お城みたい”なんてはしゃいでいた。

 お洒落な鉄製の門を潜る。

 ふと庭の花壇が目に入った。

 スイートピーはもう咲いていなかったけれど、他の花々が風に揺れている。

「……花壇は、今も理人が?」

「うん、基本的には」

 出会った頃、放課後の小学校でそうしていたように、家でも彼がよく花の世話をしていることは知っていた。

 スイートピーは特に、今でも彼にとって大切みたいだ。

「そっか、綺麗だね。スイートピーの咲く頃に来たかったなぁ」

「また来なよ」

 理人は何でもないことのように言い、鍵を開けて玄関のドアを引いた。

(“また”……か)

 このループする3日間を抜け出さないことには、永遠に訪れない。

 それ以前に今日、私は殺されるのに。

 紛れもなく、彼の手によって。

 ……なのに、何でそんな気配を微塵も感じさせないの?

「……そうだね。お邪魔します」

 曖昧に笑い、玄関の中へ入った。

 ふわりといいにおいがする。理人のにおいだ。

 何かは分からないけれど、どことなく甘くて爽やかで懐かしい。

「先に僕の部屋行ってて。お茶持ってくよ」

「あ、ううん。手伝う」

 理人とともにリビングの方へ向かった。

 彼の家はリビングとキッチンが一つの空間にある、いわゆるLDKというやつだ。

 彼が取り出したカップとお茶の入った魔法瓶をトレーに載せる。

 冷蔵庫や棚を覗いていた理人は困ったように眉を下げた。

「うーん、ないなぁ」