狂愛メランコリー


「……花壇は、いまも理人が?」

「うん、基本的には」

「そっか、綺麗だね。スイートピーの咲く頃に来たかったなぁ」

「また来なよ」

 理人は何でもないことのように言い、鍵を開けて玄関のドアを引いた。

(“また”……か)

 このループする3日間を抜け出さないことには、永遠に訪れない。

 それ以前に今日、わたしは紛れもなく彼の手によって殺されるのに。

「……そうだね。お邪魔します」

 曖昧に笑うと、玄関の中へ入った。

 ふわりといいにおいがする。
 紅茶みたいに甘くて懐かしい、理人のにおいだ。

「先に僕の部屋行ってて。飲みもの持ってくよ」

「あ、ううん。手伝う」

 彼の家はリビングとキッチンがひとつの空間にある。

 理人に続いてキッチンに回ると、彼の取り出したカップとお茶の入った魔法瓶をトレーに載せる。

「林檎でも切ろうか」

 テーブルの上に置いてあったバスケットに、赤く()れた林檎が重なっている。

「じゃあ、お願い」

 そう答えると、微笑んだ彼は引き出しから包丁を取り出した。

 リビングに進んだわたしは、何気なく部屋を見回す。

「昔に戻ったみたい」

「そうだね」

 理人が木製のまな板の上に林檎を置いた。

「覚えてる? 伯母さん、わたしが来るといつも────」

「“大きくなったら結婚”……ってやつ?」

 先んじて言うと、こと、と彼は静かに包丁を置く。
 カウンターの向こうにいるわたしをまっすぐに見つめた。

「僕は本気だよ」

 レースのカーテン越しに窓から射し込む柔らかい光で、理人の髪が透き通っていた。

 その眼差しは真剣そのもので、少しも揺らがない。

「いまもそう思ってる」

 かち、こち、と秒針が時を刻み込む音だけが場を支配する。
 わたしは理人から目を逸らせなくなった。

「菜乃」

 キッチンから出てきた彼は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 心臓がどきどきした。
 鼓動が速まって、何だか胸が苦しい。

「好きだよ」