「……っ」
つい歪めた顔を髪で隠すようにうつむき、わたしは階段を駆け下りていった。
滲んだ視界がゆらゆら揺れる。
急に、どうしてだろう。
つい先ほどまで、親身に話を聞いてくれていたのに。
傷ついた心に不安が充満して、押し潰されそうになる。
悲しんだり腹を立てたりする気力も湧かない。
とてつもない孤独感に、飲み込まれていく。
◆
彼女の足音が消えると、淡々と階段を下りた。
鏡のある踊り場を過ぎると、潜む人影に声をかける。
「……これで満足か?」
壁を背に立っていた理人は、ゆったりと微笑んで首を傾げた。
「何の話?」
余裕を崩さなかったものの、内心の苛立ちが垣間見える。
話を聞かれていたかもしれない。
焦ったものの、表には出さないよう努める。
散々勝手な行動に出ておいて、涼しげな態度の理人を目の当たりにしていると、感情が燻ってうんざりした。
「……おまえの本性には吐き気がする」
エゴを優先し、自分の理想のためだけに菜乃を殺害しているという事実。
彼女を独占するために、あえて孤立するよう仕向けているという汚さ。
以前、わざわざ人前で必要以上に菜乃に構うところを仁も目にしたことがある。
だからこそ恋人だと思ったわけだけれど。
彼女を目の敵にしている女子たちの反感を煽ること請け合いだろう。
(だから、友だちいねぇんだろ?)
だから、ひとりぼっちなのだ。
菜乃が人間関係を構築していくことを理人がとことん妨害して、ひとりになるよう仕向けているから。
周りを固めて、選択肢を奪って、孤独な彼女に自分だけが寄り添っていたいのだろう。
そうすることで、菜乃を自分に依存させている。



