だからって気軽に試せるものじゃない。
次に巻き戻ったときには、わたしもすべて忘れているかもしれないんだ。
向坂くんのことも、理人の危険性も、覚えていられる保証はどこにもない。
そしたら、何もかもが振り出しに戻る。
「……やっぱりだめだよ」
忘れないでいられた今回を、大事にするべきだ。
向坂くんにも、死ぬなんて言わないで欲しい。
そんな選択をして欲しくない。
「ほかの可能性も考えてみよう」
「ほかっつってもなぁ……」
「たとえば……何か、特別なアイテムがあるのかも」
ひとまず彼の気を逸らすべく口にした適当な推測だったけれど、意外なことに向坂くんが「それだ」と食いついた。
「えっ」
「記憶を失わずにいられる“何か”があるんだって。それを持ったまま死ねば、生き返っても忘れねぇ」
「それは……」
どうだろう。
何かそれらしいものを持っていたかな。
わたしの記憶に残っている“最初の結末”は、帰り道に殺されるというものだった。
そのとき身につけていたのは制服で、いまと変わらない。
持ちものも普段通りの通学時の荷物。
その次の結末は、向坂くんとともに階段の踊り場で殺された。
格好も持ちものも同じで、特別なものなんて何も持っていなかった。
向坂くんはどうだろう?
尋ねようとして思い直した。彼は覚えていない。
「……ねぇ、向坂くんって何を持ち歩いてるの?」
「何、ってほどのもんもねぇけど」
彼の制服のポケットから出てきたのはスマホと飴の包み紙だけだった。
ほとんど空だというリュックには、教材以外はペンケースと財布、イヤホンが入っていた。
きっと、殺されたあの日も同じようなものだったはずだ。
やはり特別なものなんて何もない。
「んー、じゃあちがうのか。ま、俺とおまえじゃ持ちものも全然ちがうだろうしな」
「そうだね……。性別も性格もちがうし、共通点なんて────」
困ったように髪に触れたとき、ふいにその左手を勢いよく掴まれた。
驚いて向坂くんを見やると、彼自身も戸惑ったように瞳を揺らがせている。
「こ、向坂くん……? なに?」
「……これ」



