狂愛メランコリー


 ────記憶にある、3回分のループについてかいつまんで話した。

「……俺も殺されてんのか」

 それは、いまの彼が知らない世界線での出来事だ。

 信じがたいはずだけれど、険しい面持ちで立ち上がると手すりから下を覗く。
 踊り場の方を見ているのだろう。

 “前々回”、わたしたちが殺された場所だ。
 ばらばらに割れた鏡は、何事もなかったみたいに壁におさまっている。

「そんで巻き戻ったそのときは、俺もぜんぶ覚えてたんだな」

「……そう。どんな法則があるのかなって考えてて」

「んー……」

 顎に手を当てた向坂くんは「あ」とひらめいたように声を上げる。

「タイミングとか」

「タイミング?」

「花宮が死んだら巻き戻るんだろ? だったら、おまえが死ぬのと同時に死んだ奴は記憶を失わない、とかさ」

 ないとは言いきれない可能性だった。

 わたしが覚えている限りでは、向坂くんが記憶を保てたのは1回きりだったけれど、そのときは確かに同じタイミングで死んだ。

 それ以前にもループしたことがあるのなら、そのときはどうだったのだろう。

 向坂くんだけが覚えていてわたしは忘れてしまった、というパターンもあったかもしれない。
 それなら、いまの説は破綻(はたん)する。

「…………」

 だけど、だめだ。

 記憶を呼び起こそうにも、まったくもって思い出せない。

 “前回”みたいなデジャヴを味わうことがあったり、この3日間より過去の出来事なら難なく思い出せたりするのに。

「試してみようか?」

「なに言ってるの! 絶対だめだよ!」

 慌ててそう言った。

 答えを得る上ではそれがいいのかもしれない。
 けれど、いくら巻き戻るとはいえ、自分の命を粗末にしすぎだ。

「でもよ、(らち)明かねぇだろ。三澄だって分かってねぇんだろ? これじゃずっと憶測のままだ」

「でも……」