4月30日を迎えた。
昨日は昼休みも放課後も、なるべく理人の気に障らないような態度を心がけていた。
慎重に接した。
その上で今日、理人がどんな出方をするのか見たいのだ。
もしかしたらそれで、彼の殺意のスイッチを入れるきっかけというものを見極められるかもしれない。
「おはよ」
「おはよう、菜乃」
門を出ると、彼の隣に並んだ。
いつも通りの学校への道を歩く。
既に何もかもが危険だ。
今日という日に突入した今、時間帯に関係なく、もう常に安全ではなくなった。
緩やかに吹き抜けた風が肌を撫でる。
それすら刺すような鋭さを感じさせた。
「…………」
そっと理人の横顔を窺い見る。
(理人にとっての私って、何なんだろう……?)
過去を振り返り、だんだんとそんな疑問を強く抱くようになっていった。
幼い頃に出会って、それからずっと一緒にいて。
お互いがお互いの一番の理解者であるはずだった。
少なくともこんなことになるまでは、私は幼なじみとして、ずっと彼のそばにいたいと思っていた。
あの秋の日の約束に囚われているわけではなく、それは純粋に私の意思だ。
(でも、だんだん分からなくなった)
理人が本当は何を思っているのか。何を望んでいるのか。
考えても考えても、彼が私を殺す理由すら分からない。
理人が変わったのではなく、自分が何かをしてしまったのだろうか。
彼に嫌われ、恨まれるようなことを……?
「今日の放課後、どこかへ遊びにでも行く?」
理人がにこやかに提案した。
思わず安堵の息をついてしまう。
放課後ということは、私の命はそれまで保証されていると捉えてもいいかもしれない。
いや、違うだろうか。
これもまた、私の反応を窺ってる……?
「えっと────」
“前回”は朝の時点で殺された。
その記憶があるのなら、今の言葉を私が訝しむだろうと踏んで、また鎌をかけているのだろうか。
それなら、何て答えるのが正解なのだろう。
理人が望む答えは何?
「…………」
つい、視線を彷徨わせた。
唇の隙間から、不安定な吐息がこぼれる。
冷静さを失っていく────。
「……分かんない……」
小さく消え入りそうな声で呟いた。
目眩がする。
足元が揺らぐような錯覚を覚える。
色々な思考が頭の中をぐるぐると駆け巡り、感情が一気に波立った。
「分かんないよ、もう。やだ、やめてよ……」
声も心も震えてしまう。
理人と駆け引きなんて、いつまでも出来るはずがなかったんだ。
足元も先も見えない真っ暗な闇の中に放り込まれたようだった。
一挙手一投足、一言一句が運命を左右した。
選択を誤れば、奈落の底へ落ちていく。
正解も分からず、答え合わせもなくて、私はずっと宙にぶら下がっているみたいだった。