狂愛メランコリー


 お互いがお互いの一番の理解者であるはずだった。

 少なくともこんなことになるまでは、わたしは幼なじみとして、ずっと彼のそばにいたいと思っていた。

 あの秋の日の約束に囚われているわけではなく、それは純粋にわたしの意思だ。

(でも、だんだん分からなくなった)

 理人が本当は何を思っているのか。何を望んでいるのか。

 考えても考えても、わたしを殺す理由すら分からない。

「今日の放課後、どこか遊びにでも行く?」

 にこやかに提案され、思わず安堵の息をついてしまう。

 放課後ということは、わたしの命はそれまで保証されていると捉えてもいいかもしれない。

 いや、ちがうだろうか。
 これもまた、反応を窺っている……?

「えっと────」

 “前回”は朝の時点で殺された。

 その記憶があるのなら、いまの言葉を訝しむだろうと踏んで、また鎌をかけているのかも。

 それなら、何て答えるのが正解なのだろう。
 理人が望む答えは、何?

「…………」

 つい、視線を彷徨わせた。
 冷静さを失っていく。

「……分かんない……」

 小さく消え入りそうな声で呟いた。

 目眩がする。
 足元が揺らぐような錯覚を覚える。

「分かんないよ。もう、やだ……」

 声も心も震えてしまう。

 理人と駆け引きなんて、いつまでもできるはずがなかったんだ。

 足元も先も見えない真っ暗な闇の中に放り込まれたようだった。

 一挙一動、一言一句が運命を左右した。
 選択を誤れば、奈落(ならく)の底へ落ちていく。

 正解も分からず、答え合わせもなくて、わたしはずっと宙にぶら下がっているみたいだった。

 もう、限界だ。

 言葉のひとつひとつを深読みして、その都度最適解を模索しては、必死で尻尾を隠して。
 実際にはとっくに追い詰められていたのに。