意地悪な笑い声がこだまする。

 なるべく、頭の中と心を空っぽにしようとした。

 そうしなければ、悪意にまみれた言葉の数々に飲まれてしまう。

 侵食されて、潰れてしまう。

「何とか言ったらー?」

 輪の中の一人が、どん、と私の肩を小突いた。

 一歩後ずさり、よろめく。

「だっさ」

「三澄くんも三澄くんだよね。何でこんな奴なんか……」

「騙されてんだって、可哀想に」

 そう言った彼女の手が再び私に伸びた。

 避ける間もなく突き飛ばされ、地面に倒れ込んでしまう。

「だからさ、うちらが目を覚まさせてあげないとじゃん。こいつは所詮、薄汚い“灰かぶり姫”なんだって」

 彼女はローファーのつま先で思い切り地面を蹴った。

 土埃が舞い、ばしゃ、とまともに私にかかる。

 咄嗟に庇うように腕で覆ったけれど、あちこちに黒い粒が飛んだ。

「……っ」

 歯を食いしばり、拳を握り締めた。

 自分が悲しいのか、悔しいのか、怒っているのか分からない。

 とにかく昂った感情が、きゅっと喉を締め付けた。

 ゆらりと視界が揺れる。

「あれー? 泣いちゃう?」

「いいね、惨めで。超お似合いだよー」

 彼女たちの笑い声が、きんきんと耳鳴りのように反響した。

『……頑張ってるよ、お前は』

 その狭間で思い出す。

『うまくやるんだろ? だったら、俺も遠慮しない』

 勇気と自信を、少しだけ────。

「……して」

 気が付くと、唇の隙間から言葉がこぼれていた。

「は? 何て?」

「いい加減にして」

 顔を上げ、決然と告げた私に余程驚いたのか、彼女たちが怯んだのが分かった。

 でも、この場にいる誰より自分が一番びっくりした。

「理人が好きなら、正々堂々そう言ったらいいじゃん! 私に八つ当たりしてないで、その労力を別のことに使いなよ!」

 しん、と水を打ったような静寂が落ちる。

 ばくばくと早鐘を打つ心臓が何だか熱かった。

 100メートルを全力で走ったみたいに苦しくて、肩で息をしていた。

 それでも、もう怖くなんてなかった。

 こんなの、死ぬことに比べたら全然なんてことない。

「何よ! 偉そうに────」

 彼女が掌を振り上げた。

 反射的に身を強張らせ、目を瞑る。

「……おい、もう黙れよ。うるせぇな」