アラームの時間通りに目を覚まし、準備と朝食を済ませる。

 門の前で理人を待ちながら、スマホのロック画面を見た。
 4月29日。

 緊張を落ち着けるように深く息をつく。

(……大丈夫)

 殺されるとしたら、明日だ。

 昨日はつい動揺して怯んでしまったけれど、今日はうまくやる。

 怖がっている場合じゃない。

 今回は、殺されてもヒントを得ることが目的なんだ。

「おはよう、理人」

 私を起こすメッセージでも入力していたのだろう、スマホ片手に俯きながら歩いてきた彼に声をかける。

「……おはよう。早いね」

 驚いたようにわずかに目を見張り、歩み寄ってきた理人はスマホをポケットにしまった。

「ちょっと、頑張ってみようかなって。自分一人でも」

 勇気を出して告げた。

 本心だけれど、どこか探るような言い方になってしまう。

 理人の意に反することを分かっているからだ。

 その反応を窺いたかった。

「……そっか」

 意外にも淡白なものだった。

 彼はそれ以上、言葉を続けない。

 否定的とも肯定的とも取れない態度に戸惑ってしまう。

 どうしたのだろう。
 器用な理人らしくない。

 釈然としないまま、そんな調子の彼と世間話を交わしながら歩くと、すぐに学校へ着いた。

 昇降口を抜け、階段を上る。

 教室の前の廊下へ来ると、足を止めた理人が私を振り返る。

「じゃあ、またあとでね」

 ぽん、と頭に手が置かれた。

 温もりを感じる間もないまま離れ、理人はB組の教室へ入っていく。

(何……?)

 昨日はむしろ近過ぎるくらいだったのに、今日は何だか遠く感じる。

 突き放されているわけではないけれど、一定の距離を保つよう線を引かれているようだ。

 まさか、何かに気付かれた……?



 困惑を拭えず立ち尽くしていると、ふと数人の足音が近づいてきた。

「ねぇ、ちょっと」

 気付けば、一様に不服そうな表情を浮かべた女の子たちに囲まれていた。

 冷たい声色や蔑むような眼差しに晒され、萎縮してしまう。

 彼女たちに促されるまま、私はついて歩いた。

「三澄くんに見られなかった?」

「大丈夫だって」

 誰かの囁く声が耳に届く。

 ……予感がないわけではなかった。

 彼女たちは理人のことが好きなのだ。そういえば、昨日の朝も彼のところにいたかもしれない。



 旧校舎の方へ続く渡り廊下を抜け、裏庭で足を止めた。ここは人気(ひとけ)がない。

 くるりと振り向いたリーダー格の女の子が、腕を組んで高圧的に私を見下ろす。

「あんたさ、何なの? 昨日といい今日といい、三澄くんとベタベタして。あたしたちに見せつけてんの?」

 こんなふうに目をつけられ、面と向かって(そし)られることは、過去にもあった。

 気の弱い私は無視も反論も出来ず、ただ彼女たちの気が済むまで罵詈雑言を浴びるしかなかった。

 黙って嵐が過ぎるのを待つしかなかった。

「彼女気取りかよ。身の程わきまえろっつーの」

「マジでムカつくんだけど。わざわざあたしたちの目の前で、ってのが」

「本当、性格悪いぶりっ子だよねー」