「おはよう、菜乃」
彼はいつでも、わたしを邪険に扱ったりなおざりにしたりすることはなかった。
いつだったか、たまたま一緒に帰ったのをきっかけに、登下校をともにするようになった。
わたしにはずっと、不思議だった。
女の子なんてよりどりみどりであるはずの理人が、たったひとりの“特別”な存在も作らず、ただの幼なじみでしかないわたしのそばにいてくれることが。
けれど、学年が上がるにつれて周囲の風当たりは強くなっていった。
理人を想う女の子たちは、わたしという存在を許さなかった。
お荷物だ、負担だ、身のほど知らずだ、と散々な言われようで、果てについたあだ名は“灰かぶり姫”。
もちろん褒め言葉なんかじゃなくて、魔法にかかることすらできない地味なわたしを嘲っているだけ。
住む世界がちがう、という意味でしかない。
理人の手前、彼女たちの嫌がらせが大事になるようなことはなかったけれど、陰口は当たり前になってだんだん孤立していった。
周りからどんどん人がいなくなって、ひとりぼっちになったけれど、理人だけは変わらずわたしと接してくれた。
彼がそばにいてくれたお陰で、本当の意味でひとりぼっちになることはなかった。
でも、わたしは知らないうちにだめになっていった。
理人を失うのが怖くて、離れていくのが怖くて、彼に全体重をかけて寄りかかるようになったのだ。
理人がいないと、朝も起きられなくなった。
理人がいないと、どこにも行けなくなった。
理人の言葉以外は何も信じられなくて、すべてが雑音に思えた。
高校に上がっても、彼とわたしは世界線の異なる“王子”と“灰かぶり姫”だった。
周りからもそう見られたし、自分でもそう思っている。
幼なじみという関係ですら、わたしは理人に釣り合わない。
だから、特に悪化していった。
こんなことになるまで、わたしはひとりで起きたことも、ひとりで学校への道を歩いたこともなかった。
世界中の誰もが背を向けても、理人さえいてくれればよかった。
理人だけは、わたしを見捨てないでいてくれる。
そう、信じていた。



