狂愛メランコリー


「……うまくやる。何とか」

 できるだけいつも通りでいる。
 ただ、殺される覚悟ははじめからしておこう。

 それはもう前提に、開き直るべきだ。

 どうして、こんなことになったのか。
 今回は“殺されないこと”よりも、探ることに重きを置く。

 怯えてばかりじゃ、3日間に閉じ込められたまま同じ結末を迎えるだけ。

(大丈夫。……わたしは死なない)

 唇の端を結び、自分を奮い立たせる。
 諦めたくない。

「何か……変わったな、おまえ」

 おもむろに向坂くんが口を開く。

「え?」

「いや、前はもっと────。あれ……?」

 言いかけた先に言葉は続かなくて、不可解そうに首を傾げていた。

 ふと、視線を流した彼が身を強張らせる。
 それを追ったわたしも一瞬、呼吸を忘れた。

「理人……」

 校門から昇降口へと向かってくる彼の姿が目に入ったのだ。
 幸い、まだわたしたちには気づいていない。

 ふいに、向坂くんに手を取られる。

「え……っ」

 彼はそのまま手を引いて、理人から遠ざかるように足早に歩いた。

 どこか既視感を覚える。
 前にも、こんなことがあったような。

 でも、いまはこの強引さを裏返したところにある優しさがはっきりと分かる。



 渡り廊下で足を止め、手を離した彼はスマホを取り出した。

「交換」

 端的に言われたものの、意図は分かった。
 連絡先を交換しておこう、ということだ。

「でも、戻ったら消えちゃうよ。意味ないんじゃ……」

「そしたらまた交換すりゃいいだろ」

 毅然と言ってくれた彼にいっそう想いを募らせながら、メッセージアプリ内でお互いにアカウントを追加しておく。

 両手で包み込むようにスマホを握り締めた。

「……ありがとう」

 ────嬉しい。
 じんわりと胸の内があたたかくなり、気づかないうちに表情が緩む。

 これで、いつでも向坂くんと話せる。

 そう思うと心強く感じられて、彼の気遣いに改めて感謝した。
 お守りみたいだ。

「ああ、何かあったら言えよ。まあ……“前回”の最期みたいになるかもしんねぇけど、記憶保てるならそれはそれでいいだろ」

 向坂くんは自身の髪をくしゃりとかき混ぜて言った。

「俺も忘れたくねぇしな」