狂愛メランコリー


「花宮……!」

 焦ったような向坂くんの声が、遠くに霞んで聞こえた。

 水面を揺蕩(たゆた)うようにゆっくりと、意識が遠ざかっていく。
 わたしの命が尽きていく。



     ◆



 菜乃の殺される瞬間を目の当たりに、衝撃と(いきどお)りを滲ませた。

 本当はいますぐにでも掴みかかりたいくらいなのに、意思に反して身体が動かない。

 後頭部からの出血が止まらず、既に意識の半分がおぼろげだ。

 鉛のように重い腕を思わず彼女に伸ばす。
 その左手首を掴むも、息を吹き返すことはなかった。

(花宮……)

 彼女の腕時計の文字盤を覆うガラスにはヒビが入っていて、白く光を反射している。

 時計の針がゆっくりと、反対向きに回り始めるのを見た。

「……次はきみの番」

 振り上げられるパイプを、ぼんやりと眺める。

 ────ぐしゃ、と頭部の潰れた音がして、理人の白い頬が返り血で染まった。



     ◇



「いや……っ」

 飛び起きたわたしは肩で息をしていた。

 苦しい。
 息ができない。

(……ちがう、気のせい)

 意識して深い呼吸を繰り返すと、わずかに落ち着きを取り戻すことができた。

 震える手でスマホを見ると、画面には“4月28日”と表示されている。

「戻ってる……」

 理人に殺されるのは、夢ではなく確かに現実。

 わたしは4月30日に殺され、死ぬと時間が巻き戻る。
 理人に殺されるまでの3日間を繰り返しているのだ。

(向坂くん……)

 何より心配なのは彼のことだった。
 あのあと、彼も殺されてしまったのだろうか。

 いますぐにでも会いたい。



 校門を潜り、昇降口に入る。
 慌てながら靴を履き替えたとき、わずかにすのこが沈んだ。

「……花宮」

 はっと顔を上げると、神妙な面持ちの向坂くんが立っていた。

「向坂くん、いま……」

 彼は確かに、わたしの名前を口にした。

 “前回”とちがって、わたしを知っている?
 まさか────。