────4月30日。

 これまでの通りなら、私が殺される日。

 目を覚ました私は粛々と朝の支度を済ませ、かなり早めに家を出た。

 理人に考えを読まれる可能性を考慮し、昨日のようなメッセージは送らないことにした。

 もう、手段なんて選んでいられない。

 “殺されるかもしれない状況”は、何がなんでも避けなければ。



「!」

 昇降口に着くと、向坂くんの姿があった。

 ポケットに両手を突っ込み、ふてぶてしいほど堂々と立っている。

 こんなに早い時間からいるなんて、と驚いてしまう。

「向坂くん」

「よ。今んとこ無事みてぇだな」

 もしかして、私を心配して早くから来てくれたのだろうか。

「……私の話、信じてくれたの?」

「じゃなきゃ一昨日の時点で付き合ってねぇよ」

 ふあ、と向坂くんはあくびをする。

 ……嬉しかった。

 不安や恐怖を塵のように吹き飛ばしてくれる彼の存在は、なんて心強いのだろう。

「三澄は?」

 あの階段へと向かいながら、向坂くんが尋ねる。

「まだ来てないよ」

 そのはずだけれど、念のため周囲を警戒しつつ階段を上っていった。

「大丈夫か? 昨日はだいぶ束縛されてただろ」

「あ……うん。バレちゃったんだと思う。私が“前回”を覚えてること」

 朝の白い光が射し込む、例の場所へ辿り着く。

 二人して段差に腰を下ろした。

「監視してるってわけか」

 向坂くんは思案顔で顎に手を当てる。

 滞りなく私を殺すためには、私に記憶があることが理人には不都合だ。

 今の私みたいに、殺されまい、と動くから。

 下手な行動に出ないよう、見張っていたいのだろう。

「……なぁ、どんなふうに殺されたんだ?」

 そう問われ、私は記憶を辿った。

「帰り道だった。話してたら急に理人に腕を掴まれて、そのまま首を絞められた。突き飛ばしたら、一瞬逃れられたけど……何かで頭を殴られて」

 そこから先は記憶が途切れている。

 それで死んでしまったからだ。

「放課後か。まだ時間はあるな」

 向坂くんはスマホで時刻を確認した。

 予鈴も鳴っていない、午前8時4分。

「……いや、猶予はねぇか。結局、ほとんど何も分からず終いだ」

「うん……。色々考えたけど、ぜんぶ憶測」

 記憶があっても、もともと知らないことは分かりようがない。

 気付かされた。

 私は理人と長い時間を一緒に過ごしてきたのに、彼のことを全然知らない。