狂愛メランコリー

     ◇



 ────4月30日。
 これまでの通りなら、わたしが殺される日。

 粛々(しゅくしゅく)と朝の支度を済ませると、かなり早めに家を出た。

 理人に考えを読まれる可能性を考慮し、昨日のようなメッセージは送らないことにした。

 もう、手段なんて選んでいられない。
 “殺されるかもしれない状況”は、何がなんでも避けなければ。



「!」

 昇降口に着くと、向坂くんの姿があった。

 ポケットに両手を突っ込んで、ふてぶてしいほど堂々と立っている。

 こんなに早い時間からいるなんて、と驚きながら駆け寄った。

「向坂くん」

「よ。いまんとこ無事みてぇだな」

 もしかして、わたしを心配して早くから来てくれたのだろうか。

「……わたしの話、信じてくれたの?」

「じゃなきゃ一昨日(おととい)の時点で付き合ってねぇよ」

 ふあ、と向坂くんはあくびする。

 嬉しかった。
 不安や恐怖を(ちり)のように吹き飛ばしてくれる彼の存在は、なんて心強いのだろう。

「三澄は?」

 あの階段へと向かいながら、向坂くんが尋ねる。

「まだ来てないはず」

「大丈夫か? 昨日はだいぶ束縛(そくばく)されてただろ」

「あ……うん。バレちゃったんだと思う。わたしが“前回”を覚えてること」

 階段を上りきると、ふたりして段差に腰を下ろした。
 朝の白い光が小窓から射し込んでくる。

「監視してるってわけか」

 向坂くんは思案顔で顎に手を当てる。

 滞りなくわたしを殺すためには、わたしに記憶があることが理人にとっては不都合だ。

 いまみたいに、殺されまい、と動くから。
 下手な行動に出ないよう、見張っていたいのだろう。

「……なあ、どんなふうに殺されたんだ?」

 そう尋ねられ、記憶をたどる。

「えっと、帰り道だった。話してたら急に理人に腕を掴まれて……(なに)か、たぶんレンガで頭を殴られて」