*



【ごめん、理人!】

【今日までの課題忘れてたから先行ってるね】

 そんな菜乃からのメッセージを黙って読み、僕はスマホをスリープした。

「…………」

 冷めきった表情で見下ろすと、液晶に反射した。

 ────嫌な予感がする。

 “今回”の彼女はどこか変だ。昨日といい、今日といい。

 僕を見つめる眼差しに、何だか怯えているような気配があった。

 “理人”と呼ぶ可愛らしい声も、どことなく緊張したように硬かった。

「もしかして……」

 以前にも一度だけ、こんなことがあった。

 彼女は忘れているだろうが、あからさまに僕を避け続けた3日間があった。

 菜乃は、最期(、、)にこう言った。

 ────“もう、殺されるのは嫌”。

 僕は、そっと目を閉じる。

 そのときの彼女には、記憶があったのだ。

 僕に殺された、という記憶が。

(まさか、今回もそうなのか?)

 以前より避け方がやんわりとしているから、ほんの違和感程度しか抱かなかった。

 誰かの入れ知恵だろうか。

 誰か、なんて、あいつしかいないけれど。

「向坂……」

 昨日、出会ってしまったのだろうか。

 昼休みのあの一瞬、目を離しただけで?

 二人を引き合わせないよう、限界まで菜乃を見張っていたのに。

(……違うか)

 菜乃に記憶があるのなら、向坂のことを既に知っていたはずだ。

 “前回”の菜乃は、彼に恋をした。

 僕を頼れなくなったなら、真っ先に助けを求める相手だろう。

「ああ、また失敗か……」

 ネクタイを締めながら、自嘲するように笑う。

 どうして、こうも上手くいかないんだろう。

「……まぁ、いいや」

 歯車が狂ったら、ぜんぶ壊してしまえばいい。

 何度だってやり直せばいいんだ。

 理想通りの世界で、菜乃が僕だけを見てくれるまで。



*



「……!?」

 理人にメッセージを送ってから、玄関のドアを開けた私は息を呑んだ。

「おはよう」

 門前に理人がいたのだ。

 跳ねた心臓が嫌な音を立て、早鐘を打ち始める。

「何で……」