狂愛メランコリー


「色々探ってみようぜ。ループについても、三澄についても」

「……うん」

「けど、なるべくあいつとふたりきりになるなよ。あんまあからさまに避けるのはまずいだろうけど、気をつけろ」

 やっぱり、向坂くんは優しかった。
 記憶を失ってもそれは変わらない。

 わたしの気持ちも、変わらなかった。

「諦めんなよ、花宮。抜け道は絶対ある」

 こく、と頷いた。

 状況が目に見えてよくなったわけではないのに、向坂くんが味方でいてくれるというだけで、少し希望が持てた。

 死に戻るループだって、絶望なんかじゃない。
 結末を変えるための、やり直しの機会だ。

「ありがとう、向坂くん」



 6限目が終わると、すぐに理人が現れた。

「帰ろう、菜乃」

「うん」

 いまのところ、大丈夫なはずだ。

 昼休みも彼が戻ってくるより先に戻れたし、失態は演じていない。
 向坂くんのことも伝えていないし、言うつもりもない。

(……あれ?)

 はたと思いつく。
 もしや、理人の(たが)が外れる一因は向坂くん……?

 わたしと出会わせないように動いていたわけだし、彼が関係している可能性はある。

 理人も向坂くんも、お互いをよく思っていないのかもしれない。

「何食べる? 菜乃はやっぱり、苺?」

 昇降口で靴を履き替えながら、おもむろに彼が言う。

 言っていた通り、どうやらケーキ屋に行く気でいるみたいだ。

 どうしよう。
 正直、できれば理人といたくない。

 死ぬとしたら2日後だろうけれど、自分を殺した相手と楽しく過ごしていられるほど図太くはない。

 その点、理人はすごいものだ。
 わたしを殺しておいて、何事もなかったかのように平然と優しい笑顔を浮かべて。

 そうも平気でいられるものなのだろうか。