狂愛メランコリー


「何がちがうんだろう? 何でわたしや理人は覚えてて、向坂くんは覚えてないんだろう」

「さあな。ま、でも三澄が覚えてんのは当然じゃねぇか? あいつが作り出した“ループ”なんだろ」

 ふと、彼が身を乗り出す。

「あいつはサイコ野郎で、おまえを何度も殺すために3日間を繰り返してんだよ」

「うーん……」

 何だか、わたしにはあまりしっくり来ない。

「理人がわたしを殺すのに、理由なんてないってこと?」

「いや、あるにはあるだろ。血が好きだとか殺しが好きだとか、サイコなりのイカれた理由が」

 だけど、もしそうだとしたら、別に殺す相手がわたしじゃなくてもいいはずだ。

 可能性のひとつとしてはありうるかもしれないものの、それですべてを説明できるほどの説得力はないように感じた。

 何かほかに理由があるのだと思う。
 いまは分からないけれど。

「……何にしても、わたしが死んだら巻き戻るんだね」

 死んでも、死なない。

 それは逆に言えば、何度苦痛を味わうことになっても逃げ道がないということ。

「そうだな。……ループのトリガーは、おまえが三澄に殺されることか、おまえの死そのものか」

「……っ」

 いまになって、また息苦しくなった。

 喉元がひりついて、頭が痛い。
 あと、何度繰り返すのだろう。

「おい、大丈夫か」

「……う、ん。平気」

 そう答えたものの、情けなくも全身が震えていた。

 怖くてたまらない。
 何度繰り返したって、死なんて慣れるものじゃない。

 いったい、何が理人を狂わせるの?
 何が世界を壊すきっかけになっているの?

「……嘘つけ。どこが平気なんだよ」

 そう言った向坂くんの真剣な双眸(そうぼう)に捕まる。

「心配すんな、おまえは死なねぇ」

 死に返るから、という意味だろうか。

 たとえ戻ってこられるとしても、一度は死の苦痛を味わわなければならないのに。