狂愛メランコリー


 窺うように尋ねると、理人の瞳が揺らいだ。
 視線を彷徨わせてから「ああ……」と苦く笑う。

「ないかも」

 本当に? 思わず食い下がりそうになって、慌てて飲み込む。

 理人はこの“死に戻り”のことをどのくらい知っているんだろう。
 わたしも知ったということは、隠した方がいいかもしれない。

 彼にとって不都合なら、それだけで殺される理由になる。

「そう、だよね」

 わたしは誤魔化すように笑う。

 殺された理由が分からなくて、あらゆることにびくびくしてしまう。

 一挙一動、一言一句が、彼の(たが)を外してしまうきっかけになったかもしれないのだ。

「あ、いたいた。三澄くん」

 そのとき、教室の戸枠の方からそんな声がした。
 ひとりの女子生徒が立っている。

「今日はクラス委員の集まりがあるって聞いてなかった?」

「ああ、忘れてた。いま行くよ、ごめんね」

 理人は申し訳なさそうに苦笑しながら席を立った。
 やはり、集まり自体は今日あったのだ。

「菜乃、ごめん。すぐ戻るからここで待ってて。どこにも行かないでね」

「う、うん……」

 念押しするような彼に手を振り返し、姿が見えなくなるまで目で追った。

 ひとりになると、深々と息をつく。
 何だか、ものすごく疲れた。神経が摩耗(まもう)する。

「…………」

 “忘れてた”なんて、そんなわけがない。
 完璧な理人に限ってありえない。

(わざと……?)

 集まりを忘れたふりをして、あえてわたしと一緒にいようとしたのかもしれない。

 “前回”はそんなことしなかったのに、どうしてなんだろう。

 思い返してみる。
 前の4月28日にあった出来事────。

 わたしには中庭で食べることを勧めて、理人は集まりに向かった。
 結果的にそれを無視したわたしは偶然、向坂くんに出会った。

(……もしかして)

 わたしを、向坂くんと出会わせたくなかった?