狂愛メランコリー




 ────まったく同じだった。

 朝のホームルームも、授業の内容も、当てられる人も、出される問題とその答えも、それ以外も何から何まで。
 既視感どころじゃない。

(本当に夢じゃなかったんだ)

 2日前に巻き戻るということは、それだけの猶予(ゆうよ)があれば、結末を変えられるということなのだろうか。

 休み時間、教科書やノートを片付けていると、誰かの手がそっと天板(てんばん)に載せられた。

「理人……」

 未来を知ってしまったわたしは、彼の柔らかい笑みの奥に覗く、黒い影を探してしまう。

 つい、怯えてしまう。
 わたし、この人に殺されるんだ。

「菜乃、大丈夫?」

「え?」

「今日は何だか様子がちがうから」

 どくん、と心臓が跳ねた。

(探られてる……?)

 緊張と恐怖を必死に押しとどめ、曖昧に笑う。

「そうかな? ちょっと疲れてるのかも」

「無理しないで、僕を頼っていいんだよ」

「……ありがとう」

 分からない。
 わたし、うまく笑えてる? ちゃんと話せてる?

 思い出そう。
 以前までのわたしなら、理人に何て言うかな。

「そうだ、今日もお昼一緒に食べられる?」

 意を決して口を開いた。

 大丈夫、理人は断ってくれる。
 そう思いながら尋ねるも、彼は嬉しそうに笑った。

「うん、もちろん」

(あれ……?)

 おかしい。どうして?
 今日は一緒に食べられない日のはずなのに。

 思わず戸惑っていると、きょとんとした理人が首を傾げる。

「どうかした?」

「……ううん、何でもない」



 思っていたのとちがって、ちぐはぐな展開になってしまった。
 もやもやとしたものを抱えながら昼休みを迎える。

 理人はどこか嬉しそうに、空いたわたしの前の席に座った。

「今日は遠回りして帰ろうか。駅前に新しくできたケーキ屋にでも寄らない?」

「……その、話」

 思わず口をついてこぼれた。
 “前回”の向坂くんと交わした会話がよぎる。

「その話、前にもしたことあったっけ……?」