他愛もない話をしながら、学校へ着くと校門を潜る。
「ねぇ、今日も一緒にお昼食べていい?」
「あ……ごめん。そうしたいけど、今日はクラス委員の集まりがあるんだ」
理人が申し訳なさそうに言った。
「そっか……」
「ばたばたしちゃうと思うから先に食べてて」
「……分かった」
つい落胆を隠しきれないでいると、理人がくすりと笑う。
そのとき、ふいに背後から腕を掴まれた。
「!」
驚きながらも反射的に振り返ると、見慣れない男子が立っていた。
耳につけたピアスや着崩した制服から、不良っぽい印象を受ける。
怒っているような険しい表情に、どこか驚きが入り混じっていた。
「あの……?」
心臓がばくばくと強く打つ中、思わず先に声をかける。
正直、何だか怖くて気持ちが怯んでいた。
「おまえ、無事だったのか」
「え?」
困惑してしまう。
いったい何の話だろう。
「何か用かな? 向坂くん」
首を傾げた理人が割って入り、一歩前に立つ。
向坂と呼ばれた彼は、いっそう厳しい顔つきで理人を睨みつけた。
「白々しいんだよ、クソ野郎。警察呼ぶぞ」
踏み出した向坂くんが、勢いよく理人の胸ぐらを掴んだ。
突然のことにおろおろとうろたえてしまう。
一方で、理人は眉を寄せるも冷静そのものだった。
「落ち着いて。全然話が見えないよ」
「ふざけんな。とぼけんのもいい加減にしろよ! おまえが花宮を────」
「ちょっと。どう考えても、きみの方が警察のお世話になりそうだけど」
向坂くんの凄みにもまったく怯まない。
(いま、わたしの名前……)
どうして知っているのだろう。
わたしは彼を知らないはずなのに。
「分かったら、そろそろ離してくれないかな」
理人は困ったように笑って言った。
いつの間にか周囲に人だかりができており、ざわめきと注目の渦中にいた。
「…………」
向坂くんはばつが悪そうに舌打ちして手をほどく。
一瞬だけわたしに目をやったものの、結局きびすを返すと歩き去っていった。



