狂愛メランコリー

     ◇



 わたしはクッションを抱いたまま、ベッドの上に座っていた。

 昼休みのことを思い出すと、無意識に頬が緩む。



「三澄はどうした? 今日も用事?」

 向坂くんは購買のパンを、わたしは弁当を食べながら話していた。

「ううん、今日はわたしが断ってきたの」

「マジで? あいつ、よく止めなかったな」

 心底意外そうに言う彼に苦く笑う。

「女の子だって嘘ついちゃった」

「あー、そういうことな。……にしても、過保護だな。彼氏じゃねぇなら保護者かよ」

 向坂くんは呆れたように言い、パンを(かじ)った。
 それからすぐに「あ」というような顔をして向き直る。

「悪ぃ、いまのは────」

「でも、仕方ないの」

 昨日のことを思ってか、すぐに悪びれた彼の言葉を遮った。

「わたし、本当にひとりじゃ何もできないから……」

「……んなことねぇよ」

 向坂くんが言う。

「昨日ここに来たのは? 怒ったのは? 今日謝りにきたのは? 三澄に言われたわけじゃねぇんだろ」

「それは……」

 それは、そうだ。
 わたしの意思でそうした。
 わたしの感情の機微(きび)がそうさせた。

「おまえが選んだんだよ。自分ひとりで判断して、選択した」

 はっと目を見張る。わたしが決めた?

「そしたら、ほら。俺って友だちもできただろ」

 わたしの心をがんじがらめに縛っていたリボンが、彼のお陰で少しずつほどけていくような気がした。

 わたしが笑うと、ふっと向坂くんも口端を持ち上げる。
 彼の自信を少し、分けてもらえたような気がした。

 ────ぎゅ、といっそう強くクッションを抱き締める。

『……頑張ってるよ、おまえは』

 向坂くんの言葉が深く浸透していく。

 弱い気持ちに押し負けそうになりながらも、今日、勇気を出して彼に会いにいってよかった。

 彼と出会えてよかった。
 話せてよかった。