狂愛メランコリー

     ◇



 昼休みを待って、わたしは席を立った。
 昨日と同じようにランチバッグを片手に教室を出る。

「菜乃」

 廊下に出た瞬間、理人に声をかけられた。
 なんてタイミングがいいんだろう。

「どこ行くの? 中庭?」

「あ、えっと……」

 どう言おうか迷った。

 毎回きちんと約束しているわけではないものの、理人とは毎日一緒に昼を食べることが習慣になっていた。

「ほかのクラスの友だちと食べてくる」

 そう答えると、理人はかなり驚いたようだった。

 目を見張って「友だち?」と聞き返され、わたしは頷く。
 正確には友だちではないのだけれど。

「知らなかった。菜乃にそんな子がいたんだ?」

「う、うん。昨日初めて話したの」

 理人はわずかに目を細める。

「……どんな子? 女の子だよね?」

「えっと……そうだよ」

 半ば焦りながら嘘をついた。

 正直に答えれば、理人の“過保護”を助長させてしまうのではないか、ととっさによぎったのだ。

 真剣に表情を引き締めていた彼は、ふいに微笑んだ。

「よかった。菜乃に悪い虫がついたら心配だからね」

 それを聞いて、正直に言わなくてよかった、とひっそり息をつく。

 それほどにわたしを大切に思ってくれていることが嬉しい反面、理人の(かも)し出す圧のようなものが少し怖い。

「じゃあ、またあとで」

「う、うん」

 手を振った理人が自身の教室へ戻ったのを見届けてから、わたしは階段を上っていく。

「…………」

 心臓がどきどきしていた。
 指先が冷たく、意識して深く息を吸わないと身も心も落ち着かない。

 正直、緊張していた。
 少し、会うのが怖い。

「!」

 果たして、向坂くんはいた。

 屋上の扉へ突き当たる最後の階段に、昨日同様、腰を下ろしている。

 今日は段差にまっすぐ座っていて、見上げた途端に目が合った。

「……あ」

 わたしの姿を認めると、頬杖をついていた腕を膝から下ろす。

 気まずさを拭えないまま、わたしは踊り場で足を止めた。

 どうやって切り出そう。
 まず、何て言おう。

 そうこうしているうちに、向坂くんの方が先に口を開く。

「……昨日は悪かったな」