昼休みを待って、私は席を立った。
昨日と同じように、ランチバッグを片手に教室を出る。
「菜乃」
廊下に出た瞬間、理人に声をかけられた。
なんてタイミングがいいんだろう。
「どこ行くの? 中庭?」
「あ、えっと……」
どう言おう?
毎回きちんと約束しているわけではないが、理人とは毎日一緒に食べることが習慣となっていた。
そこに向坂くんを交えるわけにもいかない。
彼はたぶん、理人のことをあまりよく思っていないし。
「他のクラスの友だちと食べてくる」
そう答えると、理人はかなり驚いたようだった。
目を見張り「友だち?」と聞き返され、私は頷く。……正確には友だちではないのだけれど。
「知らなかった。菜乃にそんな子がいたんだ?」
「う、うん。昨日初めて話したの」
理人はわずかに目を細めた。
「……どんな子? 女の子だよね?」
「えっと……、そうだよ」
半ば焦りながら嘘をついた。
男の子だと正直に答えれば、理人の“過保護”を加速させてしまうのではないか、と咄嗟に過ぎったのだ。
真剣に表情を引き締めていた理人が、不意に微笑んだ。
「よかった。菜乃に悪い虫がついたら心配だからね」
……正直に言わなくてよかった。
思わず息をつく。
それほどに私を大切に思ってくれていることが嬉しい反面、理人の醸し出す圧のようなものが少し怖い。
「じゃあ、またあとで」
「う、うん」
手を振った理人が自身の教室へ戻ったのを見届け、私は階段を上っていく。
「…………」
心臓がどきどきしていた。
指先が冷たく、意識して深く息を吸わないと身も心も落ち着かない。
正直、緊張していた。少し、会うのが怖い。
昨日のことに気を悪くして怒っているかもしれない。
そのことを責められたり、あるいは昨日よりもひどいことを言われたりするかもしれない。
「!」
果たして、向坂くんはいた。
屋上の扉へ突き当たる最後の階段に、昨日同様腰を下ろしている。
ただ、今日は段差に真っ直ぐ座っており、壁にもたれてはいなかった。見上げた途端、目が合う。
「……あ」