思わず彼を見上げた。
向坂くんとは対照的な、色素の薄い柔らかい双眸。
幼い頃から変わらない、あたたかい眼差し。
その目には、確かにわたしが映っている。少しも揺らぐことなく。
「菜乃?」
不思議そうに彼が名を呼ぶ。
「……本当に何でもないよ」
わたしはほんのりと笑いながら、もう一度繰り返した。
ありえない。
理人がわたしを信用していない、なんて。
だって、こんなに長く一緒にいて、こんなに仲がいい。
理人もわたしも、お互いの一番近くにずっといるんだ。
信じていなければ、もうとっくに離れている。
────彼は優しいだけだ。
彼を必要とするだめだめなわたしに、応えてくれているだけ。
それは、共依存なんかじゃない。
夜が更け、濃紺の空に星が瞬く。
窓からそれを眺めつつ、部屋のカーテンを閉めた。
『つか、おまえらどっちも異常。共依存っつーか……。三澄にマインドコントロールでもされてんじゃね?』
向坂くんの辛辣な言葉と、理人を“胡散くさい”と評したことは、思い出すたびにむっとした。
『何も知らないのに、勝手なこと言わないで』
それでも────“何も知らない”のは、わたしも同じだった。
向坂くんのこと、全然何も知らない。
人づてに聞いた話や勝手なイメージに左右されていた。
その色眼鏡を外せないまま彼と接していた。
なのに“最低”だと罵ったあの態度は、幼稚で行き過ぎていたかもしれない。
時間が経って少し冷静になった。
ささくれ立っていた心がなだらかになると、そこに昼間の出来事がぽつんと浮かび上がって影を落とした。
「……謝ろう、明日」
屋上へと続くあの階段へ行けば、また会えるだろうか。



