狂愛メランコリー

     ◇



 アラームを止める。
 日付は5月7日。

 向坂くんが死んでしまう今日を、わたしは既に何度か繰り返した。

 あの日────蒼くんによって彼が川へ転落した日、その死によって彼の作り出したループは確かに一度終わった。

 再び「今日」を繰り返したのは、紛れもなくわたしだ。
 わたしが、彼が死に返る新たなループを作り出した。

 向坂くんに死んで欲しくない。
 その一心で、あのとき“時間が戻ればいいのに”と願った。

 それが原因でまた、ループが始まったんだ。

 一度は命を落とした向坂くんの運命を歪ませたから、今度は彼が不可解な死を繰り返すようになった。

 本来死ぬはずだったわたしも、まだ今日の中で生き続けている。
 きっとこの先、その代償を受ける羽目になる。

 いまよりずっと残酷な結末が待ち受けているのだろう。

 だから、その前に何とかするしかない。
 向坂くんを救う道を探さなきゃ。



「大丈夫?」

 教室へ入って自分の席に向かうと、例によって蒼くんに声をかけられた。

「……平気」

「本当に? そんなはずないよね……。急に理人くんがあんなことになっちゃって」

 その言葉にゆるりと首を振る。

「理人のことじゃないよ。でも、わたしには無理するしかないの」

「え?」

 つい先回りして答えてしまうと、案の定、蒼くんは不思議そうに首を傾げる。

 わたしは小さく笑った。

「何でもない。心配してくれてありがとう」

 早々に切り上げて背を向けた。

 もう、彼を頼らないと決めた。
 というか、頼れない。

 これ以上巻き込んだら、蒼くんにどんな累が及ぶか分からない。

 仮に向坂くんの死を回避できる結末を迎えられたとしても、次は蒼くんが死んでしまうかもしれない。

 もしかすると“死”は、誰かに移動するだけなのかもしれないから。

 そうして延々と今日が続いていくのかもしれない。