あまりにも突然で、一瞬のことだった。
前から落ちていった彼の表情は見えないままだったけれど、自ら飛び降りたわけではないだろう。
向坂くんがそんなことをするはずない。
────あんなふうに落ちていく姿は“昨日”のそれと重なった。
だけど、今日は蒼くんに突き落とされたわけじゃない。
屋上にはわたしひとりしかいないし、彼は記憶を失っている。
それでなくとも、もう二度とあんなことはしないと分かりきっているけれど。
(でも……)
まるで見えない何かに背中を押されたみたいだった。
あまりにも不可解な死。
下から聞こえてきた悲鳴に、夢ではないことを思い知らされる。
向坂くんは死んだ。
……今日も、また。
『それ以前にもおまえは死んでるんだ。何度も何度も、ありえねぇような死を繰り返してたんだよ』
「まさか」
その可能性にたどり着いた途端、震えが止まらなくなった。
呼吸の仕方を忘れたみたいに、うまく息ができない。
「今度は、向坂くんが……?」
目の前が真っ暗になった気がした。
────わたしではなく、向坂くんが死ぬ。
死を遠ざけられたわけじゃなかった。
今日の結末が書き換わっただけ。
あるいは、運命が入れ替わった。
どうして、こんなことになってしまうのだろう。
ただ、生きていたかった。
向坂くんにも生きていて欲しかった。
それすら、高望みだと言うのだろうか。
じわ、と滲んで膨らんだ涙がこぼれ落ちる。
もう、どうすればいいのか分からない。
どの選択肢をとっても、すべてが奈落へと繋がっている気がして。
「誰か、助けてよ……」
ぎゅう、と握り締めた手の甲に透明な雫が落ちる。
わたしが何をしても、救いようのない結末へのカウントダウンをただ繰り返しているだけのように思えた。



