狂愛メランコリー


 ずん、と心に鉛を落とされたようだった。

 感情が凪いで、一気にささくれ立つ。
 開いた唇の隙間から、勝手に言葉がこぼれる。

「……最低」

 自分でも驚くほど冷たい声色になった。
 それくらい腹が立っていた。

「何も知らないのに、勝手なこと言わないで」

 まだ中身が半分以上残っている弁当箱を片付けると、バッグを手に立ち上がる。

 向坂くんに背を向け、一瞥(いちべつ)もくれないまま階段を駆け下りた。



 もやもやする。
 初対面の彼に、どうしてあそこまで言われなければならないのだろう。

(わたしや理人のことなんて、何も知らないくせに……)

 それでも、まともに反論することもできないで逃げるなんて、自分が情けなくて悔しい。

「菜乃!」

 教室へ入った途端に理人から呼ばれ、はっと顔を上げる。

 女の子たちに囲まれていた彼はその輪を抜け出し、慌てたようにこちらへ駆け寄ってきた。

「心配してた。中庭にも教室にもいないから、捜しにいこうかと……」

「ごめんね」

 席に座りながら謝った。
 こんな気分になるくらいなら、大人しく教室にいた方がよかったかもしれない。

 そうしたら、あんな無神経な人と関わることもなかった。
 一瞬でも心を許しかけた自分がばかみたいだ。

「……何かあった?」

 前の席に座りつつ、理人が首を傾げる。

 連なっていた女の子たちは、わたしに冷ややかな視線を残して散っていった。

「何でもない」

 何となく向坂くんのことは言い出しづらくて、わたしはそう答えていた。

 感情を隠していつも通りを装おうとするほど、相反して声色も態度も淡々としてしまう。
 むすっとしている自覚はあった。

「本当に? 大丈夫?」

「……大丈夫だよ」

 頷いても、理人には終始案ずるような眼差しを向けられた。

 なぜか、ふいに向坂くんの言葉が蘇る。
 ────“共依存”。

 理人はただ、優しいんじゃないの?

 過保護なのは、頼りないわたしを心配してくれているからじゃないの?

「…………」

 そうじゃないとしたら、わたしを信用していないってこと……?