狂愛メランコリー


 ────屋上に出て彼と話をした。

 驚いたことに、彼がなくしていたのは“昨日”の記憶だけではなかった。

 わたしが不可解な死を遂げていたこと、彼がわたしを殺していたこと、今回のループのすべてを忘れてしまっていたのだ。

「うそだろ……」

 すべてを伝え終えたとき、向坂くんは力なくそう呟いた。

 あまりの衝撃で色をなくした顔に、戸惑いが全面に押し出されている。

「悪ぃ、花宮。俺……」

「ううん、向坂くんは悪くないよ」

 彼が何を謝ろうとしたのかは、何となく分かった。
 わたしは小さく笑んで横に振る。

 彼がすべてを忘れてしまう前に、“昨日”直接真意を聞けてよかった。

「……でも、変だな。俺が死んだのに何で明日が来ねぇのか」

 その疑問はもっともだった。
 “昨日”の残酷な結末が消えたのはよかったのだけれど、これでは腑に落ちない。

「ループを抜け出す方法は、別にあるってことかな」

 半ばうつむきながら言った。

 わたしが死ぬか、向坂くんを殺すか、という2択ではそもそもなかったのかもしれない。

(だったら────)

 選択肢なんてなかった。選ぶ余地なんて。
 本来の運命を思うと、考えられる可能性はひとつだけだ。

 “わたしが死ぬ”。
 無情にもループは最初から、それが正解だと告げていた。

 ただ、お互いにずっと拒み続けていただけだった。

 けれど、わたしは既にその結末を受け入れた。
 あとは、向坂くんも同じように受け入れるだけ。

 その上でわたしが死んだら、きっと今日(ループ)が終わる。
 明日が来る。

 そんなことを考えながら、屋上のふちに歩み寄った。
 ここから一歩踏み出すだけで、解放されるんだ。

「おまえ、まさか……」

 いち早くわたしの考えていることを見抜いた彼は、表情を強張らせた次の瞬間、憤然(ふんぜん)とわたしの腕を掴んだ。

「ばかなこと考えてんじゃねぇよ。簡単に諦めんな!」

「向坂くん……」

「身体の不調も消えたんだろ? 死が遠のいた証拠だって」

 またいちから、今度は彼と協力すれば、運命を覆して結末を変えられるだろうか。