狂愛メランコリー


 心臓が止まりそうだった。
 混乱しながら慌てて扉をスライドさせる。

「向坂くん!」

 病室へ飛び込むと、ベッドに駆け寄った。

 彼は枕に(うず)まるように倒れ、胸元を押さえていた。
 苦しげに顔を歪め、浅い呼吸を繰り返している。

「向坂くん! 大丈夫!?」

「何でこんな急に……。さっきまで平気そうだったのに」

 蒼くんは訝しみつつも心配そうに、ナースコールを押した。

 すぐに駆けつけた先生や看護師さんがベッドを囲み、彼の姿が見えなくなる。

「向坂くん……っ」

 不安に押し潰されそうで、何度もその名を口にしてしまうけれど、彼に届いているかは定かではない。

 蒼くんに連れられて、ふたりで病室を出た。

 慌ただしい足音や声を聞きながら、祈るように両手を握り締める。

 指先が、全身が、かたかたと震えていた。
 怖くて震えが止まらない。

(大丈夫だよね……?)

 彼が死ぬはずない。
 だって、今日死ぬのはわたしなのだから。

 そう思ったのに────やがて、病室から別のアラーム音が聞こえてきた。

 ピー、と間延びするような、それでいて甲高く神経質な音。

「そ、んな……」

 それは、向坂くんの心臓が止まったことを意味していた。

 世界の色が冷たく()せていく。
 音が遠く霞んでいく。

 とても信じられない。
 向坂くんがもうこの世にいないなんて、そんなの信じたくもない。

 目の前の光景がぐちゃぐちゃに混ざり合って、渦を巻いていくようだった。

 目眩を覚え、ふらりと足元が揺らぐ。

「菜乃ちゃん……」

 とっさに支えてくれた蒼くんもまた、青白い顔をしていた。

 冷静でいられるはずがない。
 あまりにも突然すぎる。

 ────そのあと、病室から出てきた先生が何を話していたか、何ひとつとして思い出せない。

 ただ、向坂くんが助からなかったという事実だけははっきりと認識できた。

 連絡を受けた向坂くんの家族が来て、彼の死がいっそう現実味を帯びていく。

 わたしと蒼くんは、追いやられるようにして廊下の端の長椅子に座っていた。
 受け入れられないからこそ、涙も出てこない。

 身体に力が入らなくて、瞬きすらも億劫(おっくう)だ。
 蒼くんの肩を借りていないと座ってもいられない。

「俺のせいだ……」