狂愛メランコリー


 疑問形でありながら、有無を言わせぬ圧を感じる。

 蒼くんは刑事さんに連れられてどこかへ行ってしまった。
 「ここにいてください」と言われたわたしは、大人しく長椅子に腰を下ろす。

 深く息をつく。
 色々な感情が立て続けに沸き起こっては凪いで、何だか疲れてしまった。

 それでも、心は落ち着かない。
 向坂くんの容態も、蒼くんの処遇も、わたしの結末も、何ひとつとして気を抜けなくて。

 ────少し経って、看護師さんが来た。

 向坂くんが病室に運ばれた、と聞いてわたしはすぐに向かった。

「向坂くん……!」

 まだ、意識はないみたいだった。
 昏々(こんこん)と眠る彼を見やり、傍らの椅子に腰を下ろす。

(でも、よかった……)

 命を落とすようなことがなくて。

 じきに目を覚ますだろう、とのことだし、深刻な事態にならずに済んだみたいだ。

 蒼くんの気持ちを考えても、本当によかった。

「…………」

 ややあって、向坂くんがうっすらと目を開けた。
 どこかほうけたような瞳は潤んでいるように見える。

「向坂くん! 大丈夫?」

 勢いよく立ち上がると、がたん、と椅子が後ろに倒れた。

「ああ……」

 彼は(わずら)わしそうに酸素マスクを外すと、じっとわたしを見上げる。

「何か、夢見てた……」

「夢?」

「つか、記憶かな。おまえが三澄に殺されてた頃のこと」

「あ……わたしも、今朝そうだった」

 向坂くんと過ごした時間や話したこと、失ったはずの記憶が唐突に戻ってきた。

 お陰で今日、彼と真正面から向き合うことへの恐怖や躊躇(ちゅうちょ)を捨てられたわけだけれど。

(どうして“今日”なんだろう……)

 どうして、いまさらそんな夢を見せるの?

 神さまの仕業なら、ひどく意地悪だ。
 別れが余計辛く、惜しくなる。

 向坂くんはそっと身体を起こした。

「……悪かったな。散々怖がらせて、苦しめて」

「ううん。……ありがとう」

 もし、逆の立場だったら────。
 わたしに同じ選択ができるだろうか。

 殺されるのも、死ぬのも辛かった。
 痛くて苦しくてたまらなかった。

 けれど、向坂くんだってきっとあらゆる葛藤を乗り越えて、わたしとはまた別の苦痛を抱えていたはずだ。

 彼の判断が間違っていたとは思えない。