狂愛メランコリー




 搬送された向坂くんの処置を、蒼くんとふたりで待っていた。

 とても冷静ではいられなかったけれど、彼の口から聞いておかなければならないことがある。

「どうして、あんなことしたの?」

 まさか、向坂くんを突き落とすなんて。
 蒼くんもまた豹変してしまったというのだろうか。

 残虐な本性を持ち合わせていたのは、彼の方だった?

「……ごめん」

 わたしの絶望的な考えを打ち消すように、蒼くんは消え入りそうな声で謝った。

「きみを守らなきゃ、ってそればっかり考えてた。仁くんがナイフを取り出したから、またきみが殺されると思って……気づいたらあんなこと────」

 動揺を滲ませた眼差しも声色も、とても嘘には思えなかった。

 いつも彼がわたしを気にかけてくれていたことも、守ってくれようとしていたことも、染みるほど分かっているから。

「ごめん、俺……菜乃ちゃんがもう死ねないんだったら、ループを終わらせるには仁くんを殺すしかないって思って。最悪そうしようって決めてたんだ」

「え……」

「そのためにふたりのあとをつけてたことも謝る。勝手なことして本当ごめんね」

 それでも会話は聞いていなかったのだろう。
 もしくは聞いていたとしたら、またわたしが向坂くんに騙されていると勘違いしたのかもしれない。

「わたしこそごめん。蒼くんの気も知らないで……」

 一瞬でも最悪の可能性を抱いたことをひどく恥じ入る。
 彼の信頼に応えられていなかった。

「ありがとう、助けようとしてくれて」

 申し訳なく思いながらも、心から告げる。
 これ以上の言葉が見つからない。

 何か言いたげに蒼くんが向き直ったそのとき、ふと視界が(かげ)った。

「あなたが相原さん?」

 唐突に声をかけてきたのは、スーツ姿の男の人だった。
 いつの間にか、わたしたちのそばにふたり佇んでいる。

「……はい、俺です」

「我々は刑事です。搬送された向坂さんですが、あなたが突き落としたそうですね」

 救急車に同乗したとき、蒼くんが自ら話したことだ。
 病院から通報が入ったのかもしれない。

「はい……」

「少しお話いいですか?」