狂愛メランコリー


「……ごめん」

 小さく震える声で謝る。

「わたしが自殺してたのは……記憶を失わないためだったの」

「記憶を?」

「自殺すれば忘れずに済むことが分かって、それで」

「……俺に殺されたくねぇ、ってそういうことか」

 向坂くんはどこか儚げに笑った。
 お互いの思惑がずっとすれ違っていたのだ。

「でも、向坂くん。これはわたしが作り出したループじゃないよ」

 彼は意外そうな表情で振り向く。

「だってわたし、今回は“やり直したい”って願ったこと一度もない」

「じゃあ……」

 彼の瞳が揺れた。

 記憶をなくしているときのことは分からないけれど、ほぼ確信を持って言える。
 このループを作り出したのは、やっぱり────。

「俺が、繰り返してたのか」

 蒼くんの憶測通り、向坂くんがループさせていた。
 その理由は予想だにしないものだったけれど。

「……ありがとう。わたしなんかのために、ここまでしてくれて」

 自分の手を血で染めて、たったひとりで運命に抗って、わたしを救おうとしてくれた。

 それが分かっただけで、もう十分だ。

 向坂くんの優しさを再確認できただけで、もう心が満ち足りた。

 これ以上の猶予なんてない。
 今日の運命は決まっていたのだと痛感する。

「でも……もう、終わらせよう」

 そう告げると、一筋こぼれた涙が頬を伝っていく。

 運命を無理やりねじ曲げたって、またすぐにその反動を受ける羽目になる。
 別の形で同じ結果が降りかかる。

 だったらもう、受け入れるほかに選択肢がない。
 あの日、わたしが招いた死にもう一度触れるだけ。

 ────わたしは今日、死ぬんだ。

「菜乃……」

 もっと早く話せばよかった。

 こんなあとがない状況になる前に聞けていれば、誤解することなく一緒にいられたのに。

 涙の気配を必死で飲み込み、弱々しいながらも笑顔で上書きする。

「わたしが死ぬまでは、一緒にいてくれないかな……?」

「……っ」

 向坂くんの瞳が揺れた。
 彼は眉を寄せ、唇を噛み締める。

「当たり前だろ。何があっても、最期までそばにいるから」