狂愛メランコリー


「でも、じゃあ……どうして向坂くんはわたしを殺してたの?」

「……おまえが死んで最初に時間が巻き戻ったとき、前みたいにおまえがまた“やり直したい”って願ったからだと思ってた」

 つまり、これがわたしの作り出したループだと思っていたわけだ。

「けど、わけも分かんねぇまま何回も死んで、俺も何もできなくて。……そのうち諦めちまうんじゃねぇかと思った。諦めたらループが終わって、本当に死んじまうんじゃねぇかって、怖くなった」

 そうかもしれない。
 要因不明の死を繰り返して、何に(あらが)えばいいのかも分からなくて。

「だから、俺が悪者になればいいと思った」

 向坂くんが続ける。

「三澄のときみたいに、俺に殺されねぇようにやり直したい、って死ぬたび願ってくれれば、ループを繰り返せるんじゃねぇか、って」

 全然、知らなかった。
 彼の思惑にまったく気づかずに、毎日絶望していた。

「それで時間稼いで、本当の意味でおまえを救える方法を探してた。……でも、悪ぃ。身体に苦痛が残るなんて知らなくて、余計苦しめたよな」

「そんなこと……」

 すぐさま首を左右に振る。

 どのみちわたしは死んでいた。
 彼に殺されていようといまいと、のしかかるループと死の反動は変わらない。

 再び涙が込み上げてくる。

 向坂くんは以前と少しも変わっていなかった。
 残虐な本性なんてなかった。

 時折触れた彼の優しさも本物だったんだ。

(……そっか)

 わたしを攫って部屋に閉じ込めたのは、あらゆるところに潜む死の危険から守ってくれようとしたんだ。

 手の届く距離、目に入る範囲にわたしを留めておくことで。

 あのとき向坂くんが待っていたのは、わたしが生きている明日だったのかもしれない。

「でも……ここまで来ても結局分からずじまいだ。どうしたらおまえが死なずに済むのか」

 彼は欄干(らんかん)に載せた手をきつく握り締める。

「俺が殺さなきゃ、おまえはありえねぇ死に方するか自殺しちまって。止めることもできなかった」

 わたしが鉄板の下敷きになって死んだあの日、手を引いてくれていたのはきっと向坂くんだ。
 迫りくる死から一緒に逃げようとしてくれた。

 でも、だめだった。
 きっとそれで、逃げても無駄だと気がついたんだ。