狂愛メランコリー


「じゃあ、仁くんを────」

 そう言いかけた蒼くんに、首を横に振った。

 向坂くんを殺すつもりもない。
 彼を殺すか自分が死ぬか、というループの真理とも言える選択はしない。

「どうするの……?」

「もう一度、向坂くんと話してみる。“昨日”はちゃんと話せなかったけど、今度は逃げない」

 蒼くんは表情を曇らせた。
 言いたいことは分かる。

 もうあとがないと分かりきっている状況で、彼に会いにいくのがどれほど危険かはわたしも承知している。

 だけど、向坂くんの真意を知るにはやっぱり真正面から向き合うしかない。

 ただ怯えながら、わずかな希望に縋っていた以前とはちがう。

 わたしの言葉はちゃんと届く。
 いくらかそう確信できるくらいに、強い覚悟があった。

 ややあって、蒼くんは吹っ切れたように固い意思の宿る表情をたたえた。
 そこに迷いは見られない。

「俺にできることない?」

 寄り添いながらもわたしの選択を尊重してくれる彼に感謝しつつ、やわく微笑んだ。

「見守ってて欲しいな。どんな結末を迎えても」

 たとえ、わたしが死ぬことになっても。
 あるいはもっと残酷な結末に変わっても。

「……分かった」

 どんなふうにこじれても、もうやり直すことはできないけれど。

「ありがとう、蒼くん。いままでのことぜんぶ」

 どんな未来が待っていても、彼には生きていて欲しい。
 こんなループの犠牲になんてならないで欲しい。

 そして、今日が終わっても、できることなら忘れないでいてくれたらいいな。

 繰り返した「5月7日」の中で一緒に過ごした時間を。
 わたしがどれほど救われたか、ということを。

 蒼くんは眉根に力を込めた。

「俺────」

 ためらうような声色だった。
 その先に続く言葉を待ったけれど、結局口をつぐんでしまう。

「何でもない。()()、言うね」

「……うん、分かった」

 わたしも笑みを浮かべたものの、うまく笑えている自信がなかった。

 明日を信じていないわけじゃないけれど、どうしたってそこには死の気配が漂っているから。

 不確かな未来には、臆病になってしまう。

 ────でも、進むしかない。

(……大丈夫)

 結末を変えることは不可能じゃない。
 あとは自分次第だ。