あのときは演技をしているのだと思っていた。
自身の“目的”を果たすために、優しいふりをして騙そうとしているのかと。
だけど、その結論じゃ何だか腑に落ちない。
────たとえば、その目的がわたしから情報を引き出すことだったら。
そもそも彼にはそんな必要がない。
だって、わたしを殺せればそれでいいのだから。
わたしが何を見ようと、何を聞こうと、何を知ろうと、殺してしまえばリセットできる。
ループの中では、殺す側にいる向坂くんの方が優位な立場にあって、ただ殺したいだけなら駆け引きもいらない。
だから、そのための情報も相対的に必要ないのだ。
けれど、思えばあの日は違和感だらけだった。
睡眠薬入りのジャスミンティーをわたしに飲ませ、攫って部屋に監禁したところまでは理解できる。
でも、そこからが妙だった。
ただ殺すことだけが狙いなら、その段階で殺してしまえばよかっただけだ。
(……やっぱり、おかしい)
考えれば考えるほど、向坂くんの行動に別の意図が隠されているような気がする。
目を閉じたわたしは息をついた。
鉛のように身体が重く、心臓の拍動も鈍い。
蓄積する苦痛が着実に命を削っていく。
(……決めた)
きっと、これが最後の今日だ。
向坂くんを信じる自分を、信じることにする。
────支度を整えると、家を出て学校への道を歩き出す。
何度ゆすいでも、まだ口の中に濃い鉄の味が残っている気がした。
教室へ入ると、真っ先に蒼くんを捜す。
わたしが死んだあと、どうなったのだろう?
彼は無事だったかな。
どちらにしても記憶をなくしていたら、またいちからぜんぶ説明しよう。
助けて、なんて言わない。
でも彼にはすべて伝えておくべきだと思う。
けれど、まだ教室内に蒼くんの姿はなかった。
いつもなら、というか本来の今日なら、既に来ているはずなのだけれど。
「菜乃ちゃん!」



