狂愛メランコリー


 わずかに目を見張った蒼くんは、一拍置いて表情を和らげる。

「それ言うなら俺の方」

「え?」

「理人くんに殺されて、仁くんにも殺されて。頼りにしてた人たちに次々裏切られても、俺にぜんぶ打ち明けてくれた」

 優しい声で紡がれる言葉のひとつひとつが浸透してくる。

「きっと、怖かったよね。それでも……信じてくれてありがとう」

 いったい、どこまで優しいんだろう。
 蒼くんといると、羽毛に触れている気分になる。

 最初はただ、ひとりぼっちが辛かっただけだった。
 誰かに縋りたかった。

 喪失感と絶望を、先の見えない非現実(ループ)の不安を、紛らわせてくれる誰かを求めていただけだったかもしれない。

 でも、誰でもよかったわけじゃない。
 いまなら確かに言える。

 閉じ込められたのが“今日”でよかった。

 ────しばらくして、スマホを眺めていた蒼くんがふと声を上げる。

「わ、近くで通り魔だって。犯人は現在も逃走中……」

 ニュース記事でも目にしたのだろう。
 ざわ、と胸が騒いだ。

(向坂くんとは関係ない……よね?)



 終点で電車を降りた。

 普段まったく足を運ばないような場所だし、きっと向坂くんもここまでは来ないだろう。

 来られないはずだ。
 わたしの行き先として考えつくとは思えない。

「何か食べる? 早めの昼ご飯とか」

「大丈夫、あんまりお腹すいてない。あ、でも蒼くんが何か食べたいなら……」

「ううん、俺もいい。適当に歩こ」

 やんわりと笑った彼に促され、足を踏み出す。

「時間帯も時間帯だし、何か静かだね。ちょうどよかった」

 周囲を見回しつつ、彼が言う。

 平日の午前10時半過ぎ。
 車通りも人通りもわずかで、あたりは閑散としていた。
 向こう側から歩いてくる人影がひとつ見えるくらい。

「……っ」

 ふいに、ずきん、と頭に痛みが鳴り響いた。
 つい足を止めて額を押さえる。

(何か……)