わたしは言った。
完璧な答えではないけれど、間違ってもいない。
「俺に……?」
どこか意表を突かれたような反応だった。
やはり新たな記憶の法則があることは知っていても、それが何なのかまでは知らないみたいだ。
「……んだよ、それ」
いっそう不機嫌になった彼が声を低める。
「死ぬのは嫌じゃねぇのかよ。諦めたのか?」
彼が何に怒っているのか、わたしには分からなかった。
「意味、分かんないよ……。どうしてそんなこと向坂くんが言うの?」
わたしが死ぬきっかけは彼が作っているのに。
そもそも彼が殺そうとしなければ、わたしが死ぬ必要もなくなるのに。
「死にたいわけない。諦めたくもないよ、ぜんぶ」
泣きそうになって、唇を噛み締めた。
向坂くんは口をつぐんだまま何も言わない。
場に重たい沈黙が落ちる。
「……行こう」
ややあって、ふいに蒼くんの手が背中に触れた。
あらゆる感情を抑え込んだような、静かな声色で促されて、彼ともどもきびすを返す。
いまの状態で向坂くんと建設的な話し合いなんてできない。
気持ちも追いつかないし、隠していることが多すぎる。
そのくせ、肝心なことは聞けないでいる。
────怖いから。
何が殺意のトリガーになるか分からない。
何より、ただでさえ自信がなくなったのに、これ以上信じられなくなることが恐ろしい。
そうしたら、揺らいでしまう。
目的も、スタンスも、結末に抗う覚悟も。
「花宮」
階段を下りていこうとした足が、ぴたりと反射的に止まる。
「……悪ぃ」
一拍置いて告げられた思わぬ言葉に息をのむ。
まさか謝られるとは思わなかった。
(でも、何が……?)
わたしを殺すこと?
それに対して罪悪感があるのだろうか。
「大丈夫、なのか? 身体の調子」
動揺を隠せないわたしの視線が彷徨う。
(また、前の向坂くんみたい……)
不器用ながら、優しい。
一見冷たく見えるのに、その実、思いやりに満ちていて。
────本当に?
保健室のときみたいに騙し討ちでもしようとしているのかもしれない。
わたしが自殺を繰り返すせいで、自分の目的を果たせないから。
これは本物の優しさなのだろうか。
そもそもこれまでに一度でも、本気で心配してくれていたことがあったのかな。
(信じていいの……?)



