狂愛メランコリー


「決めた。俺、今日はもう菜乃ちゃんから離れない」

「え?」

「ずっと見守ってる。死ななければそれでいいし、もし死んじゃうようなら俺も一緒に死ぬ」

 彼は優しくわたしの手を取って握った。

「大丈夫。もうひとりぼっちになんてしないからね」

 いまの状況で、それ以上に心強くて嬉しい言葉はなかった。

 彼を信じてよかった。
 頼ってよかった。



 教室へ戻ると、わたしも蒼くんも戸枠のところで思わず足を止める。

「向坂くん……」

 彼が悠然とわたしの机の上に座っていたのだ。

 “昨日”をあんなふうに終わらせたから、腹を立てているのかもしれない。

 恐る恐る歩み寄ると、蒼くんが庇ってくれるように前に出た。

「何か用? 仁くん」

 そう声をかけられるまで、彼はどこか上の空だった。

「……あ? おまえにはねぇよ」

 蒼くんをあしらって机から下りると、そのままわたしの手首を掴んだ。

「来い。話がある」

 有無を言わせず引っ張っていこうとする彼に慌てる。

「ま、待って……」

「ちょっと。そんな勝手なこと許さないから」

 何とかその場に留まろうと足に力を込めると、同時に蒼くんが反対側の手を掴んで止めてくれる。

「おまえの許可なんかいらねぇだろ」

「もしかして、俺がいたらできない話? なら、なおさらこの手は離せない」

 一切怯むことなく言ってのけた。

 相当な覚悟があるのだと思う。
 一緒に死ぬ、という言葉の重みが増す。

「…………」

 うっとうしそうに目を細める向坂くん。
 かなり機嫌が悪そうだった。

 そんな彼とふたりきりになるのは、あまりに危険すぎる。

 もう何度も死ねないのだ。
 いままでよりもっと慎重にならないと。

「……だったらおまえも来れば? その代わり口挟むなよ。ひとことでも喋ったら殺す」



 ふたりで向坂くんについて歩くと、いつものところで足を止めた。

 屋上前の階段。
 何だか久しぶりに思える。

 振り向いた彼はややあって、硬い声で尋ねてくる。

「……おまえさ、何で自殺すんの?」

 心臓が音を立てた。

 さすがに訝しんで当然だろう。
 彼の目の前でわたしは何度も自分を殺した。

 なぜかと言えば“記憶を失わないため”だけれど、そうとは絶対に言えない。
 自衛の手段がなくなってしまう。

「……向坂くんに殺されたくないから」