狂愛メランコリー


 これ以上はどうにもならないのかもしれない。
 もう限界なのかもしれない。

 何とかしようって覚悟も、頑張り方も、間違っているのかもしれない。

『好きだから。……おまえの苦しむ顔と死んでく姿』

 いっそのこと、嫌いになってしまいたい。
 心の底から憎むことができたらどんなにいいだろう。

 向坂くんを好きな気持ちごと、殺してくれたらいいのに。
 そうしたら────。

『菜乃ちゃんか仁くんか、どっちかが死なない限りループは終わらない』

 その選択を、迷うこともないのに。



 学校に着くと、足早に教室へ向かった。

 いまはとにかく、蒼くんと会って話したい。
 “昨日”は一度も会えなかったから、きっと心配してくれているはず。

 教室の中には既にその姿があった。
 友だちと談笑していたものの、わたしと目が合うとどこか遠慮がちに歩み寄ってくる。

「大丈夫?」

 何だか、肩から力が抜けた。
 ほっとした。

 蒼くんの優しい眼差しがあたたかく沁みる。

「いまにも死にそうな顔してる」

 強がったり否定したりすることはできなかった。
 実際、わたしは死にかけている。

(だけど、何か……おかしい)

「大丈夫なわけないか。急に理人くんがあんなことになっちゃって」

 一瞬、呼吸を忘れた。

「え……?」

「でも無理しないでよ? 菜乃ちゃんまで倒れたら大変だし」

 眉を下げつつ柔らかく笑う彼に動揺を隠せない。

 このやり取りはもう、何度か繰り返した。
 5月7日、彼は決まってそう声をかけてくれるから。

(でも……ということは────)

 蒼くんはいま、記憶をなくしているんだ。

 わたしの身に起きていることも、向坂くんの殺意も、何度か一緒に過ごした今日のことも、もう覚えていない。

 そう認識した途端、急速に心細くなった。
 崖から真っ逆さまに突き落とされたみたいだ。

「ごめん……」

 慌てて背を向けると自分の席に向かう。

 蒼くんに頼るべきではない、という神さまからのお告げなのかもしれない。
 何だか“昨日”一日で色々と失った気分だ。

「待って。何かあったの?」

 腕を掴まれて足が止まる。
 振りほどこうと思えば簡単にできるほどの力。

 わたしは唇を噛み締めた。
 そうでもしないと、弱い気持ちがあふれそうになる。

「…………」