狂愛メランコリー


「菜乃」

 つ、と涙が伝い落ちる。
 霞んだ視界が黒く染まっていく。

「次はもっと、うまくやるから」

 水の底に沈んだように、理人の声が遠くに聞こえた。

 恍惚(こうこつ)とした微笑が歪む。
 それを見たのを最後に、わたしの意識は途切れた。



     ◇



 はっと目を覚まし、スマホのロック画面を見る。

 4月28日。
 アラームよりもかなり早く起きてしまった。

「…………」

 夢見が悪かったせいか、不思議と眠気はない。

 ────誰かに殺される悪夢。

 少しだけ息苦しいような気がして、思わず首に手を添える。

(わたしの首を絞めてたのは、誰……?)



 余裕をもって家を出て、ちらりと腕時計を確かめる。
 門前で先に待っていると、曲がり角から理人が現れた。

 少し驚いたように目を見張った彼は、それから表情を和らげる。

「おはよう、菜乃。今日は早いね」

「おはよ。何だか早く目が覚めちゃって」

 理人とふたり、並んで歩き出す。

「怖い夢見ちゃったんだ……」

「夢なんて気にすることないよ」

 眉を下げると、優しく微笑んだ理人の手が頭に載せられる。

 わたしが落ち込むと、彼は昔からいつもこうしてくれる。

 朝の柔らかい陽射しに照らされ、その温もりはいっそうあたたかく感じられた。

「そうする。……あ、今日もお昼一緒に食べられる?」

「もちろん、って言いたいところだけどごめん。今日はクラス委員の集まりがあるんだ。菜乃、先食べてていいよ」

 がっくりと肩を落とす。

 教室の隅で、ひとりぼっちでつつく弁当は本当に味気なくて、なかなか喉を通らない。

 それに、絶えず寄越される意地悪な視線に気づかないふりを続けるのも決して楽じゃない。

 落胆とともに気が重くなる。
 それでも頷こうとしたとき、理人が「あ」と声を上げた。

「たまには教室を出てみるのもいいかもよ。中庭とか、今日あったかいし」

 新鮮な提案だった。
 確かにそれなら、ひとりでも少しは落ち着くかもしれない。

「……うん、行ってみようかな」