狂愛メランコリー


(リセットしなきゃ……)

 洗剤のキャップを回して外した。
 ツン、と刺すようなにおいが鼻を刺激する。

 気を落ち着けるように息をつくと、意を決して口をつける。
 それから一気にあおった。

「……っ」

 酸っぱいような苦いような、とにかく有害だと分かる液体を流し込む。
 舌が痺れて、喉が焼けていく気がした。

 込み上げる吐き気をこらえていると、内臓まで熱く(ただ)れていく。

 手が震え、洗剤の容器を取り落とした。
 中身はもう空だ。

「う……っ」

 ぐらりと傾いた身体が床に倒れ込んだ。

「花宮……? おい、花宮!」

 慌てたような彼の声が、ドアの向こうからぼんやりと聞こえてくる。
 開かない取っ手を捻る音や、ドアを叩く音が遠くに響いた。

 でも、もう手遅れだ。
 向坂くんには殺させない。



     ◇



「うぅ……っ!」

 目が覚めた瞬間、慌てて起き上がった。
 ひりつくような喉元を押さえ、顔を歪める。

 ベッドサイドの小さなテーブルに置いてあった水を手に取り、勢いよく口に流し込んだ。

 何だか喉がからからだ。
 猛烈(もうれつ)に気分が悪い。

 あんな死に方をしたのだから、当然なのかもしれないけれど。

(まずい……)

 そう感じるのはさすがに気のせいだったけれど、洗剤のあの味はしばらく忘れられないだろう。

「わたし……」

 小さく震える両手を見下ろした。
 割れるように頭が痛くて、身体は熱っぽいのに冷えきっている。

 すぐそこまで迫ってきている死の気配にぞくりとした。

 わたしの命はもう本当に残りわずかなのだろう。
 不思議とそれが分かる。

 死ねるのはあと2回……いや、1回?
 分からないけれど、とにかく猶予なんてない。

 状況はまだ何ひとつとしてよくなっていないのに、嫌でも見えてきたリミットがわたしを焦らせる。

「どうすればいいの……?」