狂愛メランコリー


「何で、こんなこと……。どうしてここまでするの……?」

 声が震えてしまう。
 この期に及んで、まだ希望に縋ろうとしている。

「好きだから。……おまえの苦しむ顔と死んでく姿」

 向坂くんは淡々と迷わずそう答えた。
 その答えは、彼の中ではずっと決まっていたものなのだろう。

「……っ」

 浮かんだ涙がこぼれ落ちた。

 ────理人のときみたく、正面から話せば新たな面が見えてくるかもしれない。
 向坂くんの気を変えられるかもしれない。

 そう期待していた。
 信じていた。

 けれど、彼は一切揺らがなかった。

 何度殺されても、彼を嫌いになれない自分の気持ちが苦しい。

 本当に、わたしを殺すためだけに今日を繰り返しているんだ。

「……泣くなよ」

 小さく言った彼は、少しだけ困っているように見えた。

「頼むから」

 その手が伸びてきて、思わず身を縮めた。

 また首を絞められるのかと思った。
 けれど、ちがった。

 向坂くんは親指でわたしの頬を拭ってくれた。
 悲しいくらい優しくてあたたかい温もりが残る。

 戸惑いながらその瞳を見つめれば、向坂くんの顔に暗い影が差した。

 少しは残っているのかもしれない。罪悪感というものが。

「…………」

 おもむろに立ち上がった向坂くんはベッドに腰かける。
 どうやらいますぐ殺す気はないみたいだ。

(でも、どうしたら)

 両手足を拘束されている上、向坂くんに監視されている。
 この状況で逃げることなんてできない。

(隙を見て誰かに連絡……)

 そう思ったけれど、当然のことながらスマホは取り上げられているみたいだ。
 ポケットに重みがない。

「警察呼ぼうとしても無駄だぞ。捕まる前に殺すから」

「……!」

「あいつの助けも期待できねぇな」

 確かにわたしは蒼くんの連絡先を知らないし、交換するようなことがあっても、以前のループでそうだったみたいに巻き戻るごとに消える。

 そもそも彼と会っていない今日、交換したことがあったとしても連絡先が残っているはずがない。

 そこまで計算した上で、保健室でずっと付き添ってくれていたのかな。
 蒼くんと接触させないために。

 わたしが倒れたのは、彼にとってまたとないラッキーな偶然だったんだ。