狂愛メランコリー




 ふと目が覚めたとき、まず真っ先に自分の両手が見えた。

「……!」

 頭をもたげてみると、手首と足首がそれぞれ黒いガムテープでぐるぐる巻きにされ、まとめ上げられていた。

(何これ?)

 どうにか起き上がり、その場に座った。
 得体の知れない恐怖心が背中を滑り落ちていく。

 少なくとも、保健室で盛られた薬が毒じゃなくてよかった。

「ここ、は……」

 恐る恐る周囲を見回した。
 どこかの家の一室のようだった。

 黒や紺という配色やインテリアから、男の子の部屋だと分かる。

 ベッドの上に服が連なっていたり、机の上にプリントが散らかっていたりする割には、床にも家具にも埃ひとつ落ちていない。
 石鹸みたいないい香りがした。

(向坂くんの部屋……?)

 そのとき、ドアが開いた。
 反射的にそちらを向いて身を硬くする。

「……起きたか。案外長いこと効いてたな、あの薬」

 そう言いながら、彼は後ろ手でドアを閉めた。

 その視線を追うと、枕元にあるデジタル時計が目に入った。
 その表示は11時24分。
 どうやら3時間近く意識を失っていたようだ。

「何のつもり……?」

 怯んでいるのを悟られないよう精一杯睨みつけるけれど、彼はぜんぶ見透かしたように笑う。

「本気で分かんねぇの?」

 ペティナイフ片手に歩み寄ってくると、わたしの前に屈んだ。

「何回も言ってるだろ。俺の目的はひとつだけだ」

「……わたしを殺すこと?」

「なんだ、よく分かってんじゃん」

 片方の口角を持ち上げた彼を見て心が重くなる。

(戻っちゃった……。残忍な向坂くんに)

 分かり合えると信じていたのはわたしだけ。

 彼はきっと、最初からこんなふうに騙し討ちのようなことをするつもりだった。

 こんなところに閉じ込められていたら、いくら叫んでも蒼くんには届かない。

 だからこそ向坂くんはわたしを攫ったのだろうけれど。
 ここなら誰にも邪魔されることなく殺せる。

 泣きそうになって、噛み締めた唇が震えた。
 目の前の現実を拒絶しようとするほど、リアリティが増していく。