狂愛メランコリー


 あたたかい言葉に自然と頬が綻ぶ。

 彼の死を無駄にしないためにも、頑張らなきゃ。
 死線を越えて、以前の向坂くんを取り戻す。

 しがみつかなくても、日常を過ごしていけるように。
 寝て覚めたら、当たり前に“明日”を迎えられるように。



 学校へ戻ると、昼休みに入ってすぐの頃だった。
 蒼くんと別れたわたしはひとり教室へ入る。

 昇降口に置き去りにしていたはずの鞄は、誰かが運んでくれていたようだ。
 机の上に載せられていた。

(向坂くん、いつもの場所にいるよね……)

 これから会いにいくことを考えると、緊張で心臓が早鐘(はやがね)を打った。

 首に残った痕はまだ消えない。
 ひりひりと痛み、圧迫感が蘇った。

 ちゃんと話せるかな。
 いまだって足がすくんで、逃げ出してしまいたい。

(でも、もう決めた)

 望みは薄くても、死にたくも殺したくもないのなら、それ以外の選択肢を見つけなきゃ。

 ────教室を出ていこうとした寸前、誰かの机に置かれている裁ちばさみが目に入った。

 確かサッカー部のマネージャーをしている女の子の席だ。
 フェルトで何かを作っているみたいだった。

(……ごめん、借りるね)

 この場にいない彼女に断って、はさみを手に取った。

 汚してしまうことになるかもしれないけれど、“明日”になればその事実ごと消えてなくなるから。



 階段を上って最後の踊り場へ出ると、ゆらりと影が動いた。
 見上げれば、向坂くんがいた。

「……花宮」

 彼は少し意外そうに、わずかに目を見張る。

 今朝のことがあっても、わたしがここへ来るとは思っていなかったのだろう。

 億劫(おっくう)そうに立ち上がると、悠々と階段を下りてくる。

「そんなに死にてぇのか?」

 わたしを捉えたまま彼は嘲笑した。

「望み通り殺してやるよ」

 向坂くんの無慈悲な手が伸びてきた。

 瞬時に今朝の出来事が脳裏をよぎり、張りつく声を必死で押し出す。

「待って……! 待って、聞いて」

「あ?」

 声も呼吸も恐怖で震えた。
 ばくばく鼓動が跳ねて心臓が痛い。

「お願い。わたしの話、聞いて」