わたしはまだ怖い。
彼と同じくらいの思いで接するのは。
都合がいいと、最低だと分かっているけれど、信頼はしていても信用はしきれなくて。
蒼くんの優しさやあたたかさを失いたくないと思うほど、そこに意味を求めてしまう。
無償の愛を注いでもらえるような自信は、わたしにはないから。
少しの間、口をつぐんでいた彼はやがてわたあめみたいに甘く笑う。
「好きだから。菜乃ちゃんのこと」
聞き間違いかと思った。
あまりに驚いて、息をするのも忘れていた。
何も言えないでいると、彼は息をこぼすように笑う。
「……なんてね。冗談」
「え……っ」
「ごめん。反応がかわいいから、ついからかいたくなって」
くすくすと笑う彼にほっとすると同時に、なんだ、と肩の力が抜ける。
「もう、びっくりした。真剣に聞いてるのに」
「はは、そうだよね。でも本当に壮大な理由みたいなものはないよ」
蒼くんは眉を下げつつ告げる。
「ただ、本気で心配なんだよ。あんな顔されて、あんな現場見て、ほっとけるわけないでしょ」
その言葉は冗談ではないみたいで、彼の顔から余裕が消えていた。
「……こう見えてすごいびびってる。菜乃ちゃんが本当に死んじゃったら、って思うと」
「蒼くん……」
「だから俺もできることをしたいだけ。答えになってるか分かんないけど、それだけだよ」
やんわりと淡くしか捉えられなかった蒼くんという人物像、その輪郭がだんだんふちどられていく。
冷たく暗いこの世界での、唯一の味方。
理人の代わりなんかじゃない。
やっと、本当の意味で彼と目が合った。
「もう、何て言っていいか……」
申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいなのに、“ごめん”も“ありがとう”も拒まれてしまった。
「何も言わなくていいよ。遠慮なんかしないで、寄りかかってよ」



