狂愛メランコリー


「……そうなんだ。やっぱりね」

 さして驚くこともなく、けれどどこか寂しげに蒼くんが言う。

「死にたくないなら好きな人を殺せなんて、残酷すぎるよ……」

 彼は苦い表情で言った。

 ふと、小さい頃に読んだ童話を思い出す。

 ────でも、わたしは好きな人の心臓にナイフを突き立てることはできない。

 だからって自分自身が()になって消えるなんて結末も受け入れられない。

 沈んでいこうとする気持ちを奮い立たせ、凜と顔を上げた。

「……わたし、諦めたくない」

 自分の命も向坂くんの命も選びたくないのなら、運命に立ち向かうしかない。

「だけど、どうするの?」

「ちゃんと向坂くんと話してみる」

 そう言うと、驚いたような彼はすぐに険しい面持ちになる。

無謀(むぼう)じゃない? さっきの感じだと、仁くんに理性があるのかどうかすら怪しい。話なんて通じないように見えたけど」

「でも、それしかないよ。言葉が通じないわけじゃないし、信じてどうにか頑張るしかない」

「会いにいっていきなり殺されたらどうするの?」

 眉をひそめた蒼くんの言葉に口をつぐんだ。

 昇降口でだって危うくそうなりかけた上、自分ひとりではどうにもできなかった。
 また同じことが起こる可能性は高い。

 ────だけど。

「……蒼くんがいるから」

 もう、ひとりぼっちだって悲観しない。
 もう、油断しない。

「菜乃ちゃん……」

 何度自殺することになっても食らいつくだけだ。

 腕時計に手を添えると、固く唇の端を結んだ。

(見守ってて、理人)

 理人が守ってくれたわたしの“いま”を、簡単に投げ出したりしない。



 今朝の向坂くんの様子から、話をしにいくとしても彼が冷静さを取り戻すまで待った方がいい、と判断した。

 ファストフード店に入って適当に時間を潰すことにして、奥まったテーブル席につく。

 わたしはストロベリー味のシェイクを飲みながら、目の前の彼をじっと見つめた。

 視線に気づくと「どうしたの?」と首を傾げる。

「……蒼くんって、何でわたしを助けてくれるの?」

「だからそれは菜乃ちゃんが俺に────」

「そうじゃなくて」

 確かにそうだったけれど、だからって普通、まるっきり信じて命まで懸けられるものだろうか。

「どうしてここまでしてくれるの……?」