狂愛メランコリー


 蒼くんの判断を非難すべきじゃない。
 記憶を失わないための自殺が、わたしのためならなおさら。

 彼の言う通り、もう無関係じゃないんだ。

 巻き込んだからには蒼くんを信じて、一緒に戦うしかない。

「ごめんね、蒼くん。本当にありがとう」

「だから“ごめん”は禁止。“ありがとう”ももう十分受け取ったよ」

 彼は穏やかに笑った。

 それを見ていると、不思議と心の中に広がっていた暗雲が晴れていく気がする。

「……もう、決めたの?」

 ややあって言葉が繋がれた。
 蒼くんの声はあくまで優しいけれど、どこか隙のなさがある。

 何を聞こうとしているのかは分かった。
 ループを終わらせるための、最終的な選択だ。

 つまり────向坂くんを殺すか、わたしが死ぬか。

 死にたくなんてない。
 でも、だから向坂くんを殺す、なんて決断には至らない。至れない。

 弱々しく首を左右に振る。

「できない……。向坂くんを殺すなんて」

 その選択は、彼を見限るも同然だ。

 正論や理屈だけじゃ割りきれない感情が、胸の内で複雑に絡みつく。

「じゃあ自分が死ぬの?」

「それは……」

「理人くんの死を無駄にして?」

 はっきりと言われ、心臓が冷たく鼓動した。

 理人は自分の命をなげうってループを終わらせた。
 ひとえにわたしの幸せを願って。

 それなのにわたしが死を受け入れたら、理人の思いを無意味なものにしてしまう。
 またしても裏切るようなものだ。

 そういう意味でも、わたしは死ねない。

 だけど────と、思考はずっと堂々巡りだった。

「……好きなの? 仁くんのこと」

 蒼くんが真剣な声色で尋ねてくる。
 どこか緊張しているようでもあった。

 どう答えるべきか迷って、結局言葉が見つからなくて、そっと小さく頷いた。

 好きなんだ。
 わたしはいまも、向坂くんのことが。

 何度残虐な本性の餌食(えじき)になっても、想いは消えなくて。

 以前の彼を知っているだけに、あんなふうに変わってしまっても、まだ信じようとしている。

 早く鐘が鳴って、夢が終わればいいのに。
 魔法は一向に解けない。