狂愛メランコリー




 現実感をどこかへ置き去りにしたまま、流されるように駆け抜けた。

 校外へ出ると、足を止めた蒼くんが後ろを振り返って確かめる。

 向坂くんが追ってきていないことが分かると、そこからは速度を緩めた。

「大丈夫? 首、痛くない? 苦しくない?」

 心配そうな彼に「大丈夫」と小さく頷く。

 赤く染まったわたしの首には、向坂くんの手と爪の痕がくっきり残っている。
 形として現れた彼の殺意そのものだ。

 本当に危なかった。
 あと少しで殺されるところだった。

 蒼くんが来てくれなかったら、すべてがまた振り出しに戻ってしまうところだった。

「助けてくれてありがとう、蒼くん……」

「当然だよ。きみが“助けて”って言ったんでしょ」

 一瞬、戸惑ってからはっと息をのむ。

「お、覚えてるの!?」

「覚えてる。菜乃ちゃんが仁くんに殺されてることも、ループのことも」

「どうやったの……?」

 そう尋ねると、彼は一転してなぜか苦い表情を浮かべた。
 言いづらそうに口ごもる。

「実は……“昨日”、自殺したんだ。俺も」

「え」

 言葉が詰まって、思考が止まる。
 一拍置いて大きな衝撃に貫かれた。

「なに考えてるの!? もしそれで本当に死んじゃったりしたら────」

「大丈夫だよ。生き返ってるし」

 何でもないことのように笑うけれど、どうしてそうも軽く受け流せるのか分からない。

 もし、何かのせいで急に時間が巻き戻らなくなったりしたらどうするのだろう。
 取り返しのつかないことになる。

「ここまで関わった以上、俺ももうループとは無関係じゃなくなった。だから、もしかしたら同じ法則が適用されるかも、って思って」

 果たしてその通りになった、というわけだ。

 結果的にはよかったのだけれど、わたしのせいで蒼くんが命を落とすのは、本意じゃないし耐えられない。

 助けを求めたせいで彼の行動に際限がなくなったら────そう思うと、怖い。

「……ごめんね、そんな顔させたかったわけじゃないんだけど」

「ううん、わたしこそごめん。中途半端な覚悟しかなくて。責めたいわけじゃないの。ただ心配で……」